涼 と すぎる と 後半戦開始
「休憩終了! 初心者すぎる大会。再開する、よ~~↑↑」
ハイテンションな津田のコールと、パネラーやスタッフの拍手と共に、シャッターのような待機画面がアニメーションしながら開いていく。
:待ってた
:後半も楽しみ
:今来た
:後半戦からだけど見る
「後半戦も変わらぬこのメンバーでやっていきたいと思います。
そして、後半戦から見始める方もいると思いますので、ルールのおさらいをしていきたいと思います!」
ルールのおさらいと、前半のハイライトなどをやりつつ、後半戦の裏で進む後半戦の準備が完了するのを待つ。
「さて、どうやら2回戦第1試合の準備が整ったようです」
「ここからも楽しみですね」
「どんだけ人狼混じってるんだろうねー☆」
「残っている人全員人狼でも驚きはないですけど」
「できれば本物の初心者すぎる探索者さんが残って欲しいとこなんですけどね」
:月宮と涼ちゃんはまだまだ人狼が混じってること前提だww
:まぁ前半のアレを見ちゃうとな笑
:リンちゃんや鳴鐘クラスのダメな人狼はもういないなら強敵なんじゃない?
:あのレベルのがまだ残ってる方がむしろ恐ろしい
:仮に残ってても残ってる人の擬態レベル高いっしょ
そうして始まった2回戦第1試合――
「一番モニタの7番――10フィート棒のお姉さんは相変わらずだねー☆
モンスターにコウモリが追加されたからだいぶ苦戦してるかな?」
サラサのコメントに、同じモニタを見ていたグレイもうなずいた。
「でもビッグバットを確認したら棒を左手に持ち替えて、右手で剣を抜いて応戦してますね。戦い方は雑ですけど、一回戦の時より心得が増してるようにも思えない?」
:確かに
:相変わらず棒振って堅実だけど
:こいつ……戦いの中で成長してやがる……!
:コウモリとの戦いがなってない感じ初心者だよね
「対する1番さんは、かなり動きが良いんですよね」
「あれ? 本当だ。雰囲気はあんまり変わってないけど、コツを掴んだって感じの動きだよね。今まで勉強してたコトを実際経験したから、一気に血肉になったタイプ?」
:一回戦の印象は薄いけど確かに動きが良くなってる気がする
:実戦を経験して開花したタイプか
「ありえますねぇ。その分、ビックバットに苦戦はしてるんですけど、それも最初のエリアだけ。次のビックバットのエリアに入ると、対応できてるのはすごいです」
「コウモリとか蝶々とか鳥とか、飛んでるだけで面倒だからねー☆」
:それな
:相手にせずにすむならそれに越したことない系
:探索配信何となく見てる時は気にならなかったけどそうなんだ・・・
「月宮さんって飛行系モンスターどうしてます?」
「雑に武器振って当たったらラッキーくらい? 距離があるなら一応魔技とか撃つけど、倒すというより脅して散らして道を空けて貰う的な?」
「ああ、そうか。ソロならそうなるか」
:でもソロにできるのってそのくらいでは?
:的のデカい相手ならまだしも小さいとな
「涼ちゃん、今の話聞いてた?」
ふとグレイは涼に話を振る。
それに、涼は首を向けてうなずいた。
「聞いてました聞いてました。ビックバットみたいな飛行系の対処法の話ですよね?」
「そうそう」
「わお。涼ちゃんの対処法、月宮めっちゃ聞きたい!」
:果たして参考にできるかな?
:ひたすらに参考にできなそうな話来ない?
「とりあえず届く距離なら、ナイフや石を投げます。
直撃して仕留められたらラッキーで、羽とか飛行器官とかにぶつかって飛行能力が低下してくれれば狙い通りって感じですかね」
「それでどうにかなる?」
思わずグレイが聞き返すと、涼本人ではなく、横で聞いていたディグが笑って返した。
「たぶんなんやけど。動画勢で素人でもある自分からしても、それって涼ちゃんにしかできへん対処やと思うんですよ。
なにせ、投げナイフや石つぶてのエイムがおかしいですもん。化け物エイムマンやで。この人」
:マジ参考にならない話では?
:投げたら当たるから対処できますって話か
:涼ちゃんが相手してた連中って確かに投げモノが効かないのって硬いとかバリアしてるとか目がいっぱいとかだった気がするな
「ねーねー、涼ちゃん。参考までになんだけど。どうやって投げ物を確実に当てるの? 月宮的にはそれもめっちゃ気になるんだけど?」
「どうって言われても――そうだなぁ……強いて言えば、射程や射線に入ったから投げるのではなく、射程や射線に入りそうだから投げる……って感じでしょうか」
:謎かけか何か?
:FPSやってるからか何となく分かるわ
:一種の先読みか
「飛行系の――特に鳥や虫なんかは、空中で動き回ってるコトが多いので、細かい狙いを付けるよりも、とりあえず当てるつもりで投げてます」
「涼ちゃん、めちゃくちゃ難しいコト言ってる?」
グレイが思わず首を傾げていると、ディグが自分なりに理解してかみ砕いた内容を告げる。
「あれや。グレイさんなら分かると思うんやけど。格ゲーの置き技みたい話とちゃいます?
相手が飛んだの見えたから対空するんやなくて、相手が飛びそうだから飛んだら当たるように技を置いておくみたいな」
「あー……なんか分かったかも。分かったけど、リアルでそれやってんのかと思うとすごいな……」
「そうですか? 確かにリアルとゲームだと、色々と差はありますけど、どちらもリアルタイムバトルとして見た場合、双方の共通点とかから、流用できたりしますよ?」
「なるほどなるほど☆ それでいくとFPSとかの考え方も流用できたり?」
「できるモノはあると思います。ボクはあまりそっちのゲームやらないので、参考になるようなコトは言えませんけど」
:涼ちゃんはサラっとそういうコトを言う
:まぁ涼の場合は超人化なしのリアルファイトも強いらしいから。。。
「あの……大変、貴重なお話のところ恐縮ですが……皆様、第二モニタをご覧ください」
「なんでそんなへりくだってるですか?」
津田がおずおずと割り込んでくるのに、みんなが思わず苦笑しつつ言われた通りにそちらのモニタに目を向けると――
『わーっはっはっはっははっは! 決勝まで抑えてるつもりだったが、もう我慢できねぇぜ! ひゃっはー!!』
:急にどうした31番
:あれ?こいつの声聞き覚えが
:一回戦の時はふつうに初心者っぽかったのに人狼かよ!
「あの人、急に高笑いはじめまして」
「……まぁ人狼装うんの、疲れたんやろなぁ……」
遠い目をしてしみじみとうめくディグに、全員苦笑しか返せない。
そんなパネラー陣の様子など知ったことはないかのように、31番は自分の仮面に手を付けてた。
『我汝、汝我ってなモンよッ! いくぞッ、相棒!』
言うやいなや仮面を外して放り投げ、ピアス型のSAIから二つの得物を取り出した。
「あ、月宮もあれやりたい! 我汝、汝我とか言って愛用の武器取り出したり魔技ブッパとかしてぇ!」
「月宮さんステイ」
何やら前のめりのサラサを宥めている間に、31番は取り出した得物を構える。
左に対戦車モノっぽいバズーカ系の重火器。
右にコマンド映画で有名な四穴の四角い重火器。
『やっぱ時代はトリガーハッピー! 流れる時間は爆砕発破ッ!』
モノは違えど、どちらもロケットランチャーなどと呼称される兵器だ。
一般的にそれの二挺流など無茶苦茶だが、超人化された探索者であれば可能となる。
可能となるのだが――正直、特異すぎる装備だ。
『世界よ熱波に包まれろッ! だけど戦争だけは勘弁なッ!!』
:この装備にこの口上。。。
:あー
:なんだこいつwwwww
:よく一回戦我慢してたな
:誰?
:有名な探索者さん?
:草草草
:施設大丈夫そ?
:スタッフさん止めに行った方がいい
:止められる?あいつを?
:なんだこの濃くて面白い探索者は笑
「まじかー……」
コメント欄だけでなく、グレイすら頭を抱えた様子を見せる。
「ボク、初めて見る方なんですけど、誰です? いや誰ですと聞いておきたいというか」
「月宮分かっちゃった。分かっちゃったけどこんな人だったんだ……」
「こんな濃すぎる探索者おんのに自分知らんかったんですけど?」
「噂には聞いたコトがありましたけどこれほどとは思いませんでした」
それどころか、ディグ以外のパネラーは完全に天井を仰いだ。
『我が名はピストル大名ッ! この世界にロケットランチャー道を知らしめるべくダンジョンで戦う求道者なりッ!』
:ピストル大名なのにロケランなの!?
:え?なんなん?え?なんなん?
:いや何がおきてるの??
:え?え?
コメント欄も混乱の坩堝と化した中、一人だけ平然としたまま二挺の武器を構えるピストル大名。
『……と、いうワケでファイアー!!』
言葉と共に、ロケットランチャーが発射される。
「これ施設大丈夫?」
「あのロケットランチャーはスタッフが用意したイベント用のものらしいので平気みたいです」
「なんでそんなの用意されてるんですかッ!?」
:っていうか飛んでるコウモリに着弾して爆風が群れ巻き込んでるんだけど
:天井にぶつかった焼夷弾の炎が天井に潜んでたナメクジ焼いてんぞ……
:あれ?確実にモンスターだけ焼いてるぞ?
:おいおい崩れた天井がジェルラビ押しつぶしてるなけど・・・
「あのふざけたスタイルで実力は本物だから扱い困るんだよなぁ……」
画面の中で繰り広げられる爆風と爆煙に彩られているのに確実に敵を倒し、前へと進むピストル大名に、グレイは眉間を揉みながら嘆息するのだった。
――もちろん、ピストル大名は逮捕確定である。
【Idle Talk】
ピストル大名は、初期の頃こそ文字通りピストルを使っていた。
というのも、スキルの使えないピストルは探索において不利という定説を覆したかったから。
ロケットランチャーを使い始めたのも同じような理由。
使い込むうちに、ピストルもロケットランチャーもスキル化していく実感を得ていたものの、これで本当に良いのかと悩んでいる日もあった。
ところがある日、涼ちゃんねるにて、常識として定着したスキルは世界に保存され、余所の世界でも使用可能となると知り歓喜。
己の行いは無駄ではなかったと知り、これからもますます奮起しようとやる気を灯した。
折れかけていた心を繋ぎ止めてくれた涼ちゃんねるに対して強い感謝と敬意を持っている。いつか涼もロケランのスキルを習得してくれと願ってやまない。




