涼 と 初心者 と 案件番組
テン・グリップス社 ダンジョン探索者向け 新施設。撮影用スタジオ。
大きなスクリーンをバックに、横長の机に五人付いている。
各員の前には、パソコン用のモニタも置かれている。
今日はライブ配信による、探索者向けバラエティの収録だ。
この五人のメンツの中には、涼もお呼ばれして混ざっている。
準備が整い時間が迫ると、カウントダウンの声が響く。
「時間になりまーす! 5、4、3、2……」
カウントに合わせて一番右の席に座る男が、顔をカメラに向けた。
「テン・グリップス・プレゼンツ! ダンジョン探索者ぁぁぁ、初心者すぎるぅぅぅぅ大会ぁぁぁい!」
大人しそうな雰囲気の、けれどもガタイの良い男性の低音ボイスがやかましい声でタイトルコールを行うと、コメント欄が一気に盛り上がりだした。
:きた
:待ってた
:はじまた
「司会で企画はこの私、津田マテリアル! です!」
:涼ちゃんこのメンツと一緒して大丈夫?
:月宮ちゃんピースしてるかわ
:涼含めてメンツはわりとガチなんだよなぁ
「そして一緒にこの大会の審判と進行をやってくれる愉快な仲間たちを紹介しましょう」
:安定のグレニキ
:ディグにゃんの場違い感
:ダン配・涼、探索者・グレイ、ダン配V・月宮、プロゲーマー・ディグ
:あの人探索者じゃないん???
:ほんとディグにゃんなんでいるの
「それ、おれが知りたいわ!」
痩せぎすで長髪の、ディグと呼ばれた男性が思わずコメントにツッコミを入れてしまった。
「ディグさん、自分が振るまで喋らないで~!」
「津田さん、すんません」
:怒られてて草
:草
:やーい叱られたー笑
:w
「自分ら覚えときぃ!」
:いやぷー
:三歩歩いて忘れてくる
「というわけで、まずはプロ探索者でプロゲーマーでもあるグレイバレーさん!」
「どうもグレイバレーです。今日はよろしく。
初めてましての方は、グレイとかグレイバとか呼んでくれてOKです」
中肉中背で髪が短い男性が丁寧に調子で挨拶する。
:キャーグレイさーん(棒
:イケメングレニキ
:グレイバ呼んでるやつみたことない定期
「次に、ベテラン探索者でダンジョン配信者の涼ちゃん!」
「えっと、あの……涼です。よろ、しく」
:硬すぎ草
:緊張MAX感笑
:いつもの棒よりもひどくて草
:この子かわいい
:他メンツと違って公式番組的なの馴れてないもんねw
「そして今日はリアル姿で来てくれた、Vtuberでもありダンジョン配信者でもある月宮サラサちゃん!」
銀髪ウィッグに三日月があしらわれたリボンをつけ、顔には綺麗なドミノマスクをした少女が可愛く自己紹介をする。
「どもー! サラサちわ~! 縦長モニタでアバター参加したかったんだけど、番組予算が足りないとかでリアルVer.で参加させていただきましたー! 月宮サラサでーっす!」
:サラサちゃーん!
:月宮まじかわ
:さらさちわー
:事情ゲロってて草
「裏事情さらっと言わないでくれます!?」
「サラサだけにサラっと言います」
:うまい!
:草
「別に上手くはないからね!?」
:津田マテ焦ってる
「スポンサーに怒られそうなコト言わないで欲しいよー!」
:津田マテ魂の叫び
:それはそう
:草
「最後に、今回のゲストです」
「今回のゲストもなにもこの企画今日が一回目やん!」
「グレイバレーさん推薦、プロ格闘ゲーマーのディグさん」
「改めてどうもディグです~。マジで今日、場違い感ハンパないですけど、邪魔にはならんようにしますんで、よろしくおねがいします」
:ディグにゃん
:関西の人?
:ほんとなんでいるの?
:ほっそい人だ
:グレニキ推薦なん??
「さて、この錚々たるメンバーで何をやるかと言いますと、タイトルコールの通り『探索者、初心者すぎるトーナメント』となります」
説明を始めた津田に、サラサが首を傾げる。
「あのね、月宮はさぁ、面白そうだからオファー受けたんだけどもね。そもそも『初心者すぎるトーナメント』の意味わかってないんだ。初心者探索者集めた企画程度しかわかってなくてさ。グレイさん聞いてる?」
「いや実は自分もよく分かってなくて、同じくらいの認識ですよ。でもダンジョン配信とか探索関連に理解のある――でも探索者じゃない人が一人欲しいっていうからディグに声かけたんだけど」
「声かけられて自分でいいのかと思いつつ、めっちゃギャラ良かったんで受けました」
:ギャラ草
:そんな良かったの?
「まぁギャラはさすがテン・グリップスがスポンサーって感じなのはマジです」
「グレイさん言っちゃっていいの!?」
「月宮さんは?」
「いやー……月宮も実はそこにかなり熱い関心が……?」
:どいつもこいつもw
:全員ギャラ?草
:そんな美味しい仕事だったのか?
「涼ちゃんはなんで引き受けたんです?」
「なんというか……ボクもギャラ、ですね。お金だけでなく、宮崎県産炭火焼き黒鶏の冷凍10kgくれるって聞いて即決しました」
:涼ちゃんwwww
:草すぎる
:それで即決するんだ
:草
「出た涼ちゃんの鶏肉!」
「月宮さんめっちゃ嬉しそうやないですか」
「リアルで聞いても笑っちゃう☆」
:月宮さんニッコニコで草
:普段からダン配の時は涼ちゃん推し発言してるもんなw
「っていうか冷凍炭火焼き10kgって……自分2kgでしたよ」
「グレイさん、それで足りるんですか!?」
「むしろ2kgで十分じゃないです?」
「ボク、10kgでも物足りないんですけど」
「あはははは! 月宮も2kgでした」
「おれも2kgでした。っていうか10kgって絶対涼ちゃん限定のギャラですよね?」
「焼き鳥の話で盛り上がってるとこ悪いんですけど、司会の僕のギャラの話していいです?」
:そこに乗っかるのか司会
:津田マテ真顔
「僕、焼き鳥0kgなんですけど? 筋肉の足しにできないんですけどーォ!?」
:草
:まぁ司会だし
:主催だか企画だかって言ってたしな
「っていうか津田さん、ギャラトークにノってないで進行してくださいよ」
「今日のディグさん僕に当たりキツくないです??」
「今、ディグ呼んでおいて本当に良かったと思ってる」
「あはははは☆ グレイさん完全にツッコミ役としてディグさん呼びました?」
:開幕からぐだぐだしてんな
「あの、こんな盛り上がってる時になんですけど……結局、『初心者すぎる』って『初心者』と違うんです?」
:涼ちゃん!
:馴れない人が一番進行に優しい!
:進行に厳しいの間違いでは?w
「よくぞ聞いてくれました!」
「その話かと思ったらギャラの方へ脱線したじゃないですか」
「涼ちゃんも結構辛辣!」
:なんなら涼ちゃんが一番辛辣まであるw
:馴れてない分鋭くいくかもね笑
「よし。改めて説明しますよー!
今回は、探索者の初心者……ではなく、『初心者すぎる』を集めました」
「そもそも初心者と初心者すぎるの違いはなんです?」
「ディグさんの質問もごもっとも!」
:初心者すぎるってくらいだから初心者よりも初心者ってこと?
:初心者よりもさらに手前ってどういう状態の人だ?w
「初心者過ぎるの定義としましては――
『探索者資格を保有している』上で、『ギルドの初心者講習を受けていない』し『一度もダンジョン探索をしていない』けど『探索者になりたい人』とします」
:いるのかそれw
:すごい絞るな
:それなら確かに初心者以前の初心者だけど
「極めて限定的すぎる気がするけど、そんなに『初心者すぎる』人っている??」
「番組で一般公募しましたところ、我こそは『初心者すぎる』と自称する人がいっぱい集まりました」
「自称!? 集まった人たち自称なのッ!?」
「自称って言った? 津田さん今、自称がいっぱい集まったって言いました?」
「自称しかいなかったりしません、それ?」
「自称って、誰でもいくらでも自称できへん?」
:www
:草
:全員から最速でツッコミ入った草
:一斉のツッコミで笑う
:そら自称だもんな
:っていうかそんな集まったのか
「今回は初心者すぎる大会となっており、トーナメント形式で本物の『初心者すぎる探索者』を決めたい。そういう企画となっております!」
:本物の初心者すぎるってなに?笑
:もしかして本当に自称しか集まってないのでは?w
:草草草
「そして、今日お呼びしたパネラーの皆様には、その試合の様子を見て頂いて、初心者ではない人を見つけてもらいたいんです」
「見つけたら?」
「現行犯で逮捕して頂き、逮捕された方にはトーナメントを卒業して頂きます。おめでとうございます!」
「退場じゃないんですね」
「逮捕理由は初心者すぎる人ではないという話ですからね。逮捕は名誉判定です。だから、初心者すぎるランクからの卒業おめでとう……という意味で」
:おめでとう理解
:確かにそれは名誉だわ
「じゃあ月宮ばんばん逮捕者出すね! 逮捕しちゃ~うゾ☆」
「それ番組の趣旨が変わりそうなのでやめて!? ちゃんと判定してくださいね!?」
:逮捕されたい
:逮捕してほしい
「試合って何するんですか?」
「涼ちゃんって基本的にボケをスルーしてくれるから進行に優しいですよね」
「そういうつもりはないんですけど、放置してるとなんかいつまで経っても話進まなそうで」
:ある意味で強いよな
:可愛い顔してるけど毒舌系の方?
:可愛い顔した暗殺者だよ涼ちゃん
:暗殺者・・・?
「試合形式について説明しますと――
今撮影しているこの施設には、新型で大型のダンジョン・シミュレーター施設が設置されております。
ダンジョンはもちろん、擬似的なダンジョン内での超人化も再現されるシミュレーターの中で、実際に探索してもらいます」
「でも探索でトーナメントってどんなコトするんですか?」
サラサが首を傾げると、涼や他の二人も同じようにうなずく。
「単純に入り口から、制限時間内にゴールまで行ってもらうのが基本ルールです。
対戦相手同士は同じマップの形をしてますが、基本自動生成のランダム。
また道中にはボスがいたり、宝箱があったりしますので、そこでの対応も見れます。
一応、先にゴールした方が勝ちなので、逮捕が発生しなかった場合はそこで勝敗が決まります。
モンスターを倒したり、罠を避けたり、宝箱の中身をゲットしたり……という探索者として優秀なアクションをするとポイントが入るようになっていて、制限時間が来た場合はポイントをより多く稼いでいた方が勝ちです。
ポイントも同数の場合は、よりゴールが近い方が勝ち、と――そんな感じです。
もちろん、途中で現行犯逮捕された場合は退場……じゃない卒業という扱いで、残った方が勝ち抜けです」
津田の説明に、グレイバレーとディグが不思議そうに訊ねる。
「これ、勝負そのものは勝った方がトーナメント勝ち上がりでいいんですか?」
「そうです」
「え、つまりこれ、ビギナーズラックでしか勝ち上がれへんってコトやないです?」
「まぁだいたいそんな感じです。
自称初心者すぎる人たちもこれで篩いかけられるかな、と」
そこまで聞いて、涼も首を傾げた。
「対戦している二人ともが逮捕された場合は?」
「その場合は両方卒業で、二回戦の人数が減る形になります」
:これ優勝するのは名誉なのか不名誉なのかw
:名誉すぎるとでも言うべきか笑
「初心者すぎる人たちの動きを見て、皆さんに解説してもらったりツッコミを入れてもらったりするコトで、視聴してくださってる人たちへのダンジョン啓蒙になればいいかな、と」
「まかせて! 月宮が全員逮捕してあげるから!」
「月宮さん、ここまでの話を聞いてましたッ!?」
「だいじょーっぶ! 聞き流してたよ☆」
「ちゃんと聞いといて欲しいよーォ!」
:もしかして津田マテと月宮の漫才をみる番組?
:まぁ根は真面目な月宮だから口だけ口だけ
【Idle Talk】
関係者席でハラハラと見守っているモカPこと香。
とりあえず、涼がちゃんと仕事をできているようで安心。
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涼ちゃんねるとは無関係な話で申し訳ないのですが
拙作『魔剣技師バッカス』の書籍3巻が8/12に発売となります
すでに店頭に並んでいるお店もあるそうですので、ご興味有りましたらお手に取って頂けると嬉しいです٩( 'ω' )و




