涼 と ディア と 反省かい?
「……!?」
赤いバッパラ肉を口に運んだ涼は、慌ててお茶を手に取った。
:どうした涼ちん?
:慌ててるけど顔は光ってるな
:美味しいけど水分が欲しい的な?
「フルーツ味ばっかりだから油断してた」
「え? そんな辛かった?」
涼の様子にやらかしたかな? というような顔で訊ねるディア。
それに、涼は首を横に振る。
「辛いモノだと思って食べる分には大丈夫。
緑や黒のつもりで口に運んじゃったから、驚いちゃっただけ。
改めて食べてると、そんな慌てるほど辛くないから」
そう言って、小さく切ったものをもう一口食べて見せる。
すると、これまでのバッパラ肉の中で一番の輝きをみせた。
「複雑な風味はあれど、この辛さは唐辛子だよね?
たぶん、七味の味が一番近いんじゃないかな?」
:なるほど急に分かりやすい味がきたなw
:それなら分かる!
:ようするにヤキトリだな
:ステーキだよ
:肉を焼いてるから一緒だろ!笑
:おい
:こら
:聞き捨てならねぇな
:ヤキトリとステーキを一緒くたに語るやつ放課後体育倉庫の裏に鯉
:I've got a frypan ready to punch idiots!!
:ガチ勢おこってて草
涼の食レポを聞いたゲストの面々が、赤バッパラを口に運ぶ。
「うむ。これは確かに分かりやすい。岩塩を軽く付ければ、酒が欲しくなる味わいだ」
「これだとマジで良い鶏肉だって分かる味だな。青よりももっと明確に鶏肉って感じがする。これはいい」
「フルーツのオシャレな味も悪くはないが、やはり日本人としてはこの味が落ち着く気がするな」
:ギルマスも鳴鐘も良轟氏も絶賛だ
:まぁピスタチオやブラックベリーと比べたらわかりやすさがダンチ
:鶏肉に七味の風味だから想像もしやすい
「七味風味のチキンステーキ……意外にもチョコソースが合うのですね。
苦みとコクのあとに来る胡椒とは違う刺激が、とてもいいです。ワインが欲しくなります」
「あれ~~? 紡風さんは知らない? 七味風味のチョコとか~~、有名なショコラ店が作ってたりするんだぜ~~」
「ほう。以前、バレンタインの時に妻からワサビ風味のモノを貰ったコトはありますが、七味もあるのですね」
:まずワサビや七味の味がするチョコというのがわからん
:風味としては何となくって感じだぞ
:チョコの味の奥にほんのり感じる風味をどう思うかは人それぞれ
:意外と味わったコトある人いるんだな
:そんだけ料理や食事のガチ勢がいるってことだろ・・・
:推し活勢と料理ガチ勢と探索ガチ勢がクロスする配信はここですか?
:そう言われるとすごいコトが起きてる気がする
「さて、最後は……」
:白か
:ピスタチオ、ベリー、柑橘、唐辛子と来て・・・なんだ白?
:甘い系がしょっぱい系か
「すごいクリーミーだ」
口に入れた涼がそう言って驚いた顔をするものの、顔は光らない。
「いやまぁ、クリーミーだけどさ~~」
「なんつーか、すごい物足りない味だな」
心愛と守も首を傾げる。
「どこか食べ慣れた味というか口触りなのだが、ひと味もふた味も足りないというか」
「みんなの言うとおりですね。これは確かに不味くはないが物足りない」
一成と良轟も同じように首を傾げている。
その中で、旋はじっくりと味わいながら、何かに気づいたように顔を上げた。
「これはホワイトシチュー……いえ、むしろ牛乳ですね。
バッパラの持つ鶏の風味や旨味と交ざるコトでシチューっぽさが生まれてますが、そもそも塩味もなければ、野菜などのダシもない牛乳の味なので、物足りなく感じているのではないかと。
岩塩を付けて食べると、よりシチューのように感じられますよ」
「正解です紡風さん。実は何気にグルメですね?」
:物足りないと感じるは似たような味をすでに知ってるからってか
:鶏なのにウシチチの味とはこれいかに
「これ~~、チョコソースと合わせた時、何気に一番好み分かれるかも~~!」
旋の解説を受けた心愛が、チョコソースを付けて口に運びうなる。
「ここあちゃんは結構好きだけど、たぶん守と会長はダメなやつ~~! 涼ちゃんはど~~う?」
「確かにチョコソースにミルク感が増すのは好み分かれそうですね。
僕は全然大丈夫です! チョコソースと岩塩を合わせると、物足りなさが無くなって良い感じになりますし!」
:お?ちゃんと輝いた!
:しかしミルクチョコソースとステーキの組み合わせがなぁ
:心愛ちゃんの言うこともわかるわ
:たぶんオレもダメだ
「そうですね。個人的にはチョコソースと岩塩を合わせると、むしろコクや塩味がプラスされる上に、チョコの苦みがまろやかになるので、食べやすくなる気がします」
「あー……心愛の言う通り、オレはダメそうだ」
「うむ……儂もだな。岩塩だけで良い」
涼と旋は肯定派だったが、やはり心愛が言う通り守と一成の反応はイマイチだ。
:牛乳味の鶏をチョコで食べる マジで意味わからんわw
:もう情報がおかしくて混乱してくる笑
:最初から情報の洪水だっただろ
:多頭七面鳥から属性によって味の変わるバッパラだもんな
:その味変鳥もチョコソースと岩塩でまとめ上げてるしな
「コメントたちよ。言っておこう。ここで食べてる私も似たような感想だとな!」
:良轟氏……
:まぁそれはそうだろう
:実際食べても混乱するのか
「不味くはないが、未知なる食材に未知なる味の洪水なのは間違いないぞ」
:流れや並びを見てればそれはそう
:むしろ平然としている涼ちゃんディアちゃんが異常な可能性
:あと涼ディアのところのスタッフもな
「そんなワケで、バッパラ五種だったけど、涼ちゃん的にどうだった?」
「すごい面白かった!」
:めっちゃ目がキラキラしてる笑
:本当に楽しそうな顔してるなw
:守りたいあの笑顔
:現実は涼ちゃんに守られてるオレら
「鶏肉不足で寝ぼけてた頭は覚めてきた?」
「うん! 覚めまくり!」
:そういやそうだ
:動かない石像になってたもんな
:震える置物状態も悪くはなかった
:さては状態異常萌えが混ざってるな?
「よし」
確認を終えたディアは、一つうなずき、周囲を見回す。
ゲストだけでなく、スタッフもバッパラステーキを食べ終わったのを確認してから、涼へと向き直った。
「それならマザーグース戦に関するお話とかしよう!」
「おーけー!」
:お、来たな
:料理も良かったけどこれも楽しみだった
:恒例イレギュラー反省会
:なんで恒例になっているのか
:イレギュラーが恒例化したらそれはイレギュラーなのか問題
「じゃあ、マザーグースに関して僕から一言」
「なに?」
「ソロじゃ絶対勝てない相手でした。遭遇したら逃げる一択!」
「そんな強かった?」
「んー……強かったとかじゃなくて、相性の問題?
首がそれぞれに周囲を警戒するから、僕の必勝パターンである『死角を突く』がそもそも通じない相手だったし」
:そうか涼ちゃん的に死活問題
:ある意味で死角問題だな
「でも、涼ちゃんが常に死角を突く動きをしてくれてたおかげで、首の注意の一つを常に涼ちゃんに向けれてたのは大きいよ」
「そう言って貰えるのなら助かります。途中から、それをメインに動いてたので」
:ステルス能力をヘイト稼ぎに使うってのは斬新だな
:それを判断できた涼ちゃんもすごい
「鳴鐘さんは何かあります?」
「そうだなぁ……面倒な相手ではあったな。
単純な強さはそこまで高くなかったんだが、涼ちゃんの言う通りあれはソロキラーだと思うぜ。
とにかく全ての首がしっかり役割分担をしつつ、お互いを補い合ってる間は、本来のスペック以上の強さを発揮するモンスターだった感じだしな」
だろ――紡風さん、と守が話を振ると、旋もうなずく。
「ええ。同感です。
一方で、首を一つでも潰す。そうでなくとも、首の複数を混乱させるコトはかなり重要になってくる相手でしたね。
そして混乱したなら、混乱しているうちに叩く。立て直されたら、また混乱させるところからリスタートになるのだと思うと、厄介極まりないですね」
:やばいと思ったら逃げ出す知性もあったしな
:あの戦闘見てる限りこのメンツじゃなければもっと苦戦していたんじゃね?
「首が弱点だけど伸びたり曲がったりグニグニ動くのも面倒な相手だったね。
おかげで新技を編み出すキッカケになったので、個人的にはありがたいと言うべきだったかもだけど」
:なかなか少年心がうずく技でした
:そうでなくとも遠間から高威力攻撃は有用
「正直なところ、マザーグースって戦闘に関する反省とか質問とかは実はそんなにないと思うんですよね」
「あー……ね。なんか、動画とか切り抜きとかで、だいたい分かるでしょ……みたいな」
:それはまぁうん
:涼ちゃんもディアちゃんも身も蓋もないコトをーw
「なので、個人的に聞きたかったコトを涼ちゃんに聞きます!」
「なに?」
「……涼ちゃん、なんかやらかした?」
「えー」
ディアの質問に対して涼が思い切り顔をしかめる。
「その質問ひどくない?」
「いやだって鳥モンスターだったから」
:それな
:日頃の行い
「いくら僕でもさすがに護衛任務中に巣に突っ込むとかしないよ?」
:えー本当にござるかぁ?
:日頃の鶏肉ジャンキーっぷりを見てると・・・
「いや本当だって! 怪しい気配がしたから見に行ったらマザーグースがいて、しかも結構ナワバリの範囲が広かったらしくてターゲットにされちゃっただけで!」
:護衛中に怪しい気配があれば確認はしにいくか
:斥候の仕事を思えば真っ当っちゃ真っ当か
「……でも卵あったでしょう?」
「うん。あれは良さげな卵だった……欲を言えば手を出したかったけど、護衛仕事中に手を出すわけにはいかないよね?」
:そうだった涼ちゃんって鶏肉狂いであると同時にガチ探索者だった
:仕事はキッチリするタイプか
:あれ?ディアちゃんなんで卵の存在知ってるの?
「あ! コメントの言う通りだ! なんでディアさん卵の存在知ってるの!?」
「だって翌日に探索しにいったし、あの辺りに」
「え!?」
:まさかの
:想定外の発言が
「そして回収してきました!」
いえいと可愛くピースするディアに、涼が目をまんまるに見開く。
「中身は取り出しちゃってますがこの通り!」
そう言って、ディアはSAIから卵の殻を取り出した。
先端に穴は開いているのだが、それは間違いなく涼が見た卵と同じモノだ。
:デッッッッッ!!!
:説明不要!!!
:あのサイズのモンスターの卵にしては小さいだろうけど
:ダチョウの卵よりは余裕でデカイな
「あの、ディアさん……中身は?」
恐る恐る涼が訊ねると、ディアは意味深に笑って立ち上がる。
そうして、そのままキッチンへと戻った。
「それじゃあ、もう一品! 行きましょう!」
次の瞬間――
:涼ちゃん顔の輝き安売りしちゃダメ
:何も食べてないのに光ってるww
:よっぽど嬉しかったんだろうなぁ
――涼の顔が光り輝くのだった。
【TIPS】
実は湊、マザーグース戦の翌日に、シーカーズ・テイルにお願いして、一緒に周辺の確認をしていた。
その際に見つけたのがこの卵。
複数個あったので、一つはお礼としてプリンを作り、シーカーズ・テイルの面々へとごちそうしている。
例によって、セリアは一口食べてフリーズした。




