涼 と ディア と バッパラステーキ
普通の丸鶏と同じようなサイズの肉ながら、その肉は、それぞれが白、青、黒、赤、緑の色を薄らと帯びている。
「この鳥モンスターの主な生息ダンジョンは海外ばかりで、日本のダンジョンだとごく少数のダンジョンでしか確認されてないみたいなんだよねー」
「そうなんだ。ふつうにいるフウチョウとは違うよね?」
「もちろん。それは極楽鳥ってあだ名のふつうの鳥でしょ? これはダンジョンのモンスターだから別物だよー! ちなみに宇宙語だとバードオブパラダイスって呼ばれてるみたい」
:宇宙語ではないな
:ただの英名やろそれw
:バッパラという略称も有名
:結構バッパラ呼ばわりされてるよね
「バッパラ? その小さいツってどこから出てきたの?」
コメント欄を見ていた涼が首を傾げると、即座にコメント欄に返事が書き込まれていく。
:元々海外でも縮めてバーパラって呼ばれてたんだけど その略称が日本に入ってきた時に日本人はバッパラて聞こえたとかでその呼び方が定着した
:バーパラ呼びが日本語的なまりになった結果バッパラ
「ああ、なるほど。
ボクは初めて見るんだけど、どういうモンスターなのか知ってます?」
「ふふふ! 任せて! 調理方法と一緒に勉強もしてきた!」
「おお!」
:ドヤディアかわいい
:ドヤちゃんにパチパチ拍手してる涼ちんも可愛い
:英語は分からないのに勉強はできる子
:必要な勉強はふつうに出来るのに言語関係壊滅なのどうして?
「極楽鳥――バッパラはね、周囲の環境を変化させちゃうモンスターらしいんだ」
「環境の変化?」
「こいつらの居る周囲数メートル範囲で属性攻撃使うと、人間もモンスターも問わず強化されたり弱体化したりしちゃうんだって」
:うわ面倒そうな
:強化される分にはありがたくね?
:自覚してる強化はともかく無意識に自分の制御を越えた強化されるのは怖い
「どの属性……とかは決まってるんですか?」
「特にないらしいよ? バッパラ次第みたい。個体ごとに属性が違うらしいんだよね。
例えば火属性のバッパラが近くにいると、火属性の攻撃が強化されて、それ以外が弱くなる……みたいな状況になるらしいんだよね。
さらに近くに闇属性のバッパラがいる場合、より近くにいる方の影響を受けるらしくて。
火が強化されてる前提で攻撃したらいつもの威力が出ないみたいなコトも多いらしいんだよね。
その逆で影響受けないつもりで火を使ったら強化されてて、誤射しちゃったりとか」
:面倒くせー
:複数と遭遇したら最悪なやつじゃん
「火属性のバッパラが二体いたら?」
「重複するらしいよ?」
「うあー……」
「だから、焚き火しようとして魔技でマッチ程度の火を起こそうとしたら、近くにバッパラがいたせいで、火柱になっちゃって火傷……みたいな被害もあるみたい」
「面倒な……」
:常に意識する必要があるのか
:バッパラのいるダンジョンは落ち着かなそうだ
:ダンジョンはどこであっても落ち着かないけどな
:落ち着いて風景楽しんでるやつもいるぞ
:落ち着いて寝顔楽しんでるやつもいるなー
:どっちも同じ探索者じゃないですかー!
「あとね。バッパラが大量に出てくるコトで有名なイタリアのダンジョンは、溶岩エリアや流氷エリアって感じですごい特化環境が連続してるらしいんだけど……。
例えば溶岩エリアだと……前半は、火以外のバッパラが多いから火炎系モンスターが対処しやすいのに、途中から火のバッパラばかりになってくるから、急激にこれまで戦ってきた火炎系モンスターが急激に強くなったり……みたいなのはあるみたいだね。
流氷エリアも、水バッパラが同じ感じで出現するみたい」
:同じエリアの同じモンスターなのにバッパラの有無で戦闘力が大きく変わるのか……
:火バッパラの群れの中に火炎系モンスターとか鬼か
:環境特化型ダンジョンとの相性が良すぎる
「各フロアの階段前にボスがいるらしくて……ボス戦中も常にバッパラが乱入してくるらしいんだよー。
怖いっていうか、厄介だよね」
:自分の攻撃出力が一定にならないのはやだな
:何をするにも常にバッパラの位置と属性を意識するって相当疲れそう
「食べれる鳥として見るといっぱいいるのは嬉しいけど、戦闘の邪魔だと考えると、かなり厳しいな。
あ。そういえば、バッパラそのものの戦闘力は?」
「世界で最弱モンスターと認定されてるジェルラビと同じくらい?
バッパラは空を飛んでるし、属性変化が厄介なので、ランク2って扱いだけど、単体での単純戦闘力はランク1以下らしいよ」
:弱いのは救いか
:空を飛んでるってだけで倒しづらいんだけどな
:If you're with other flyers, you'll make mobes to cover them
:なんて?
「他に空を飛んでるモンスターがいると、前に出て盾になるような動きをするコトもあるみたいですね」
:面倒くせぇな!
:群れで出てきて属性状況をぐちゃぐちゃにしながら他の飛行モンスターをかばう……地獄かな?
「さて、バッパラの生態で盛り上がっていますが――そろそろ料理に行きたいと思います!」
:忘れてた
:美味しく食べてやろうぜ
「ちなみに、ここにいる五匹。薄らと色が違うのは分かると思います。これが属性の異なるってやつですね」
:そういうコトか
:わかりやすいな
「バッパラはメイン属性を持ちつつも、気まぐれに属性を変えるコトもあるようなので――実際には、倒した時の属性が肉の色になっているようです」
:属性の切り替えもするのかよ!
:戦闘力低くても相当厄介ですよコイツ!!
「涼ちんには悪いんだけど、料理の為に事前にちょっと味見してました」
「それはマジマジのマジでズルい」
:涼ちん真顔
:涼ちゃんステイ
:涼くん落ち着こう
「これがまた、想定外の味だったので、どう料理するか悩みましたが――シンプルにステーキです」
そう言うと、ディアは五つフライパンを用意して、肉のそれぞれを皮目を下にして、焼き始める。
「テツさん直伝の下拵えを施してあるので、ささっと焼いていきますね。
ちなみに、味付けについても相談した結果、ソース別添えという形になりました」
:テツさん直伝はすごいな
:テツさんって誰?
:以前ディアーズキッチンにゲストに来たプロのシェフさん
:ディアちゃんの料理レベルがすごい上がってる
:どんなソースだろ?
「ソース別添えとはいえ、下味もほとんど付けないの?」
「うん。ちょっと変わった味がするからね。塩も別添えの方がいいんだよ」
:塩も別添え……?
:どんな味がするんだバッパラ
バッパラの肉をひっくり返し、さらに焼いていたあとで、バットに引き上げてアルミホイルで捲いて寝かせる。
寝かしている間に、ディアは茶色い塊を取り出した。
:カレーか?
:いやカレーじゃないだろ
「……それ、チョコレート?」
「うん。高カカオなやつ」
:チョコ!?
:どうしてチョコが!?
:フレンチとかにあるよねチョコソース
「これを湯煎したあと、アルコールを飛ばした赤ワインを加えて伸ばし、粗挽き胡椒を加えて混ぜ合わせます。軽く冷ましてから生黒胡椒の塩漬けも加えます。ちなみに生黒胡椒の塩漬けの味が濃いので、塩とかは入れません」
:生胡椒?しかも塩漬け?
:なんか知らんモンがでてきた…
:旨いよ 高いけど あとしょっぱい
:安いステーキでも添えてあげるだけで高級感でるよね生胡椒の塩漬け
:知らないというならバッパラの肉の時点で・・・
:《シロナ》高カカオチョコレートを粗挽き黒胡椒で食べるとビール進みますよね
:唐突なシロナさんの酒カスアピール草
:なんかお洒落な肴すぎて想像ができない
:というかチョコを肴にビール……?
:え?私やるよコンビニで売ってるようなアーモンドチョコを肴にビール
:意外とやってる人いるんか
:《シロナ》生胡椒の塩漬けもそれだけでお酒が進みます
:今度やってみよ
:シロナさんに酒カス配信やってほしさ出てきた笑
:今日ほど未成年であることがくやしい日もないな
胡椒とチョコレートとお酒で盛り上がるコメント欄を余所に、ディアは料理を続けていく。
涼にしても、調理が進む鶏肉料理に意識が持って行かれてもはやコメント欄を見ていない。
「大きめに切った白菜の柔らかい部分も焼いていきますねー」
白菜を焼き終わると、火が入ったバッパラ肉を各種適当なサイズにスライスする。
それを皿に置くと、白菜→肉→白菜→肉……と重ねるように色の違う肉を並べていく。
五色の肉をそれぞれ並べ終わったら、肉に掛からないようお皿の縁にチョコソースを垂らす。
さらにチョコソースとは逆側にピンク岩塩を軽く盛る。
そして最後に粒のままのピンクペッパーをあしらって完成だ。
「バッパラステーキ完成!」
「おおおおおお!!」
:涼ちんのテンションがすごい
:いやでも見た目だけで充分美味しそう
「ディアちゃ~~ん! 調理工程見てて思ったけど、もしかしてバッパラのお肉ってさ~~!」
「心愛さんストップ! そのネタバレは食べ終わってからにしてください!」
「そりゃそうだ~~! つい言いたくなっちゃったぜ」
:なんだ?ここあたんは何に気づいた?
:調理工程で分かるバッパラ肉の特性・・・
:あ!え?マジでそういうコト?
:ああ!わかった!なにその料理人泣かせの特性
:だから白菜を間に挟んだのか
:泣かせかなぁ?むしろ調理してみたいわw
:ソースがシンプルなチョコソースだけなのってもしかして。。。
:ディアーズキッチンを見てるガチシェフ勢も何かに気づいてるぞ
:ガチ探索者勢だけじゃなくガチシェフ勢もいるのかここのコメント欄
:個人的に探索者よりシェフの方が多い気がしてる
:テツさんゲスト以降増えたよねガチシェフ
:ガチシェフですゲストのオファー待ってます
:私も私もー!
:是非に!!
:シェフニキたちが騒ぎ出して笑う
:I'm a chef, interested in ddungeon ingredients. I would like you to invite me as a guest!!
:me too!!!! me too!!!!!!
:海外のシェフニキたちまでゲストに呼んで欲しい騒ぎ出したwww
「皆さん、まずはお塩やソースは付けず、そのまま味見してみてください。
その上で、好みで味を足すつもりで岩塩やソースを付けてどうぞ!」
:しかしディアちゃんはスルーした
:英語読めないもんね
:宇宙語だから仕方ない
:私たちは日本語なんですけど!!
:ディアちゃんが日本語読めると思うなよ!
「失敬な! 日本語くらいは読めます!!」
:コメント気づいた笑
:wwww
:lol
:草
「ディアさんが日本語読めるかどうかより早くバッパラ食べたい!」
「涼ちゃん!?」
:ですよねーwwww
:それはそう笑笑
:鶏肉の前には全てが無力すぎて草
:As expected of Ryo! Chiken goes with everything! lol
:Yes!! Chicken is the Silk Road!!
【Idle Talk】
雑談書くのが楽しくて実食まで行かなかった。
そんなワケで次回をお待ちください。
そしてバッパラの元ネタはすでにバレバレのようですね。
そうです――
『極楽鳥は、見ての通りとてもステータスの低い雑魚カードなので、ボクのこのカッコイイ上にとてもステータスの高い大型ワームの甲鱗様と交換してあげるけど、どう?』
――でお馴染みのあの鳥が元ネタです。
用意した五色はそのリスペクトの意味があったりもしたりします。




