涼 と ディア と ローストターキー
:キラッキラだなw
:サングラスかけておいてよかった
:もうスチャ弾幕ナシでは生きられない
切り分けられ、皿に盛られたローストが目の前に置かれただけでこの輝きだ。
「はよう! はよう!」
「涼ちゃんステイ!」
:興奮を抑えきれない犬
:幼児化通り越して野生化してきたぞ
:ディアちゃんからの扱いもワンコっぽくて草
涼の顔が輝く一方で、顔が暗くなっていく男もいる。
その様子に、一成が苦笑を浮かべた。
「良轟殿。セセリを味わったのだから、もう覚悟を決めて良いのでは?」
「そう言われましてもですね……」
出されたローストに複雑な視線を向けたまま、良轟がうめく。
「戦闘でビビらされた分、美味しく喰ってやるぜ……くらいの感覚の方が気がラクだぜ、おっさん」
「生憎とそこまで割り切れん……」
守の言葉も一理ある――と思いつつも、やはり踏ん切りが付かないようだ。
:実際に試そうとするとわかるんだけど意外と勇気いるよな
:ディアちゃんのマネしようとして俺も結局ダメだったわ
:意外と試そうとしてる連中はいたのか
:ロケランで敵を倒すと粉砕しちゃって試せないぜ!
:ピストル大名はお帰りください
:お帰りはあちらです > ピストル大名
「逆に問いたいのだが、キミたちはどうして平然としている?」
「う~~ん、まぁぶっちゃけさ~~……元の見た目がどんだけ不気味でも、こ~~なっちゃったら、も~~うなんか、料理じゃん?」
ローストを指し示しながら、そう言う心愛に、コメント欄に何となく納得するような空気が流れる。
:それはそう
:まぁ確かに
:そうかな?そうかも?
「ダンジョン関係なくてもさぁ~~、エスカルゴとか、ウニとか、ナマコとか、オコゼとか? 人によってはイカやタコもかな~~?
ともあれさぁ~~そういうやつって、見た目不気味だけど料理すると美味しそ~~筆頭でしょ~~? 一緒じゃん、ダン材料理と」
そう言い切る心愛に、良轟がむむむ――とうめく。
「詭弁や欺瞞で煙に巻かれている気がするのだが、正しい気もする言葉だ……」
:そのまま煙に巻かれちゃえ
:ダン財面に堕ちた方がラクですよ~
コメント欄ともども、良轟を誘惑している間に、料理の提供は終わったようだ。
カメラは、涼とディアの座っている席へと向く。
「というワケで、マザーグースのローストです!
みんな、サングラスは用意してあるなー!」
テンション高めのディアの言葉に、リスナーたちもコメントで盛り上がっていく。
:もちろん!スチャ
:涼ちゃんとのコラボはもはやこれが楽しみ(スチャ
:スチャ
:sutya
「なんだスチャスチャ、スチャスチャとコメントが増えているが……?」
よく分かっていない良轟の元へと、サングラスが提供される。
「なんだこのサングラス? これも食うつもりか?」
:この反応よww(スチャ
:食うのか?は草すぎる(スチャ
:もはや何でも食べる怪獣扱い 間違ってないけどスチャ
「はよ! はよ!」
「涼ちゃんが、『はよ!』しか言わない生き物になってきちゃったので、そろそろ食べましょうか」
:はよしか言わない生き物笑
:それはそれで可愛いなww
:はよはよ涼ちんグッズ化希望
「では、頂きます!」
「いただきまーっす!」
二人がそう口にすると、周囲からもそういう声が聞こえてくる。
その直後、待ちに待った――とばかりに、涼は手にしたカトラリーで肉を切り、口に運んだ。
「……!」
口に入れた途端、ローズマリーの甘やかな香りと共に、ターキーの風味が口いっぱいに広がった。
そしてそれは、噛みしめるごとに、適度な塩気と一緒に脂と旨味が滲みでる。
:輝いたー!
:これが見たかった!
:うわ嬉しそうな顔
「……この為のサングラスか……!」
:理解して頂けたようで何よりです
:顔の輝きが強くなるターキーかぁ
:見た目からして旨そうだったけどやっぱ旨かったんだな
「すっごいしっとりしてるのにちゃんとターキーの味だ!」
:そりゃあターキーだからね
:涼ちゃんが言いたいのはそういうコトじゃないんだよなぁw
:ターキーがしっとりしてるのはディアちゃんの腕のおかげだろうな
「いやぁ我ながら上手く出来たね! ターキーは肉質が硬めで水分が少ないから、造り方によってはだいぶパサパサしちゃうからねー! マザーグースもその性質が無いワケじゃなかったし」
:そうなのか
:セセリの時も言ってた気がする
「もちろんディアさんの腕もあるんでしょうけど、マザーグースの肉……そもそもからしてかなりしっとりとしたターキーっぽくないです?」
「わかるー! 硬めの肉質はターキーっぽいけど、噛みしめた時の噛み応えは気持ちのよい感じで、噛みしめれば噛みしめるほど、野味のある旨味がじわ~って出てくる感じ!」
「噛んでて幸せになる歯ごたえと味わいですよね! こういう感じのグミとかガムとか出ませんかね?」
「この味が、グミやガムやソフトキャンディとして売り出されたらのーさんきゅーかなー?」
「えー」
:えーではないが
:肉味ガムとか怖すぎる
:涼ちんは何を言っているのか
:おれ買っちゃうかも
:興味は惹かれるな
:野生を忘れた肉食獣かよ
:家出した正気よ戻ってこい
「確かにこれ~~、美味しい硬さって感じだね~~」
「うむ。好みは分かれるだろうが、この歯ごたえは心地よいな」
「食い出があって結構好きだぜ。大きく切ったのを大口あけて放り込むのが好きな奴には向かないかもだが」
今まさに、大きく切って大口開けて食べようとしていた良轟が、まるで何事も無かったかのように小さく切って口に運ぶ。
「確かに硬いが……なるほど、硬いが旨いという意味が分かるな」
:ちらっとカメラに映ったのが見えてしまった笑
:良轟どの~~www
:澄まし顔草
「ええいッ、うるさいぞコメントども!」
さすがにコメントでの指摘が恥ずかしくなったのか、顔を赤くして声を上げる。
「良轟殿も普通に口にしたのだな」
「まぁセセリを口にしましたからね。すでに食べてる肉にビビっても……と思いまして」
そう言って、良轟は詰め物として入っていたジャガイモを口に運ぶ。
「……!」
そのあと、キノコ類も口に運び……表情が大きく変わった。
:どうした良轟?
:完全に味覚をやられた顔をしたぞ・・・
「これは――もしかしたら、私は肉よりこの芋やキノコの方が好きかもしれん」
それを見ていたディアも、すぐにジャガイモを口にした。
「うわあ……想定以上というか想像以上というか、お芋に染みこんだターキーの旨味と香りがすごいんだけど……。
え? キノコやタマネギも……! なんかワンランク上の野菜みたいな味になってる……!」
驚いているディアを見て、涼も野菜を口に運ぶ。
すると、涼の顔も輝いた。
「ほんとだ。チキンスープ――じゃなくて、ターキースープか――で煮込まれたみたいな味染みしてる……。
それでいて、野菜の味を上書きしないどころか、高めているというか……わ、なんかすごいよ、これ!」
:野菜で輝いた。。。だと!?
:涼ちんの顔が輝く野菜の味ッ!
:《モカP》いや本当にこの野菜に染みこんだ風味がやばい
:《出部長》本当に野菜スープを食べているような感じだね
:《シロナ》ビール飲んで良いですか?
:なんでコメント欄に現れてるんですかねぇ
:まぁゲストが多くて出張りづらいからだろ
:あとシロナさんは我慢してください
:《香》自分で一発ぶん殴った鶏の味はうめぇなー
:かおるくんは超人化なしで攻撃通した報酬だと思ってたんと味わってなぁ
:なんで超人化なしで高レベルイレギュラーに攻撃通してるんですかねぇ・・・
「さてマザーグースも良いんだけど、実はモカP……というか、香さんから提供されたお肉がありまして」
「そんなのあるの!?」
「あるんだよねぇ」
:涼ちんの瞳が鶏の輝きに!
「香さんが、テン・グリップス社の社長さんとお話した時に、お土産として貰ったそうです。ダンジョンモンスターのお肉」
「あ! そう言えばそんなの言ってたね! 何のお肉?」
「こちら! ダンジョンモンスターの極楽鳥です!」
そう言って、ディアが取り出したのは五つの肉の塊。
「……いる! 五匹もいる……!!」
普通の丸鶏と同じようなサイズの肉ながら、その肉は、それぞれが白、青、黒、赤、緑の色を薄らと帯びているようだった。
【Idle Talk】
ジャガイモとタマネギもモンスターだった模様
残念ながらマッシュルームやシメジのモンスターは見つからなかった
なおエリギンフェンサーは、ディアが手を出すには少々危険だったので、悔しくも見送りしたそうである




