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涼 と ディア と ロースト準備


 一度口にして旨いと思ってしまった時点で負けだ。

 そう考えて、良轟は素直にセセリ串を楽しむことにした。


 その途中で、ふと気づく。


「ところで、涼の顔が光ってるように見えるのはなんだ?」


:あれは光るものなので

:なにって言われても光ってるだけですよ

:涼ちんの顔だもんな


「まともな視聴者はいないのかッ!?」


:ツッコミが新鮮

:そうかオレら飼い慣らされてたな

:チキンの俺 不思議に思わなくなってた

:美食家の俺 コラボの時のいつもの光景だった


「……私がおかしいのか?」


 ついに頭を抱え始めた良轟の肩を、心愛がつんつんと指先で叩く。


「ん?」

「あっち~~」

「どうした?」


 心愛が指差す先。

 そこには、良轟にカンペを向けたモカPがいた。


 そのカンペだけを映すようにカメラが動く。


 良轟も良轟で、テレビ馴れしているからか、敢えてそのカンペを声に出して読み上げた。


『良轟氏のツッコミは極めて正しいです。

 チキンも美食家も、配信者の異常プレイに飼い慣らされているのは間違いありません。

 でもこの番組ではそれが当たり前となっております。

 良轟氏におかれましては、せっかく残っている常識を失わないよう楽しんで頂ければと思います』


:モカP丁寧

:異常プレイ

:まぁ飼い慣らされてるといえばそう

:丁寧に解説してるんだか煽ってるんだかw


「やはり配信者というのは異常者の集まりなのではッ!?」


:草

:w

:lol

:笑


 常識人のツッコミは心地よい。

 そんな雰囲気がコメント欄に流れ始めた頃、ぼちぼち全員がセセリ串を食べ終わりだしていた。


 スタジオ全体をゆっくりと回っていたカメラも、涼とディアのとこへと戻ってくる。


「さて、次のお肉はこれ」

「……マザーグース……だよね」


 ディアが出してきたのは、一般的な鶏のもも肉と同じくらいのサイズの肉の塊だ。


「そうだよ。どこの部位だかわかる?」

「えー……」


 SAIから取り出した肉塊を見るも、涼も困ったような顔をした。


:涼ちんも分からないのか

:元が大きすぎるから切り出されたのも一部過ぎて判断に困ってるのでは


「あ、そのコメント正解です。

 たぶんもも肉だとは思うんですけど、普段見ているもも肉で言うところの四分の一くらいの部分だけ見せられてる感じなので……」


:そう言われると難しいな

:元が大きいから一枚肉といかずに切り出す必要があるのか


「さっすが涼ちゃんに、美食家やチキンのみんなだ。もも肉で正解。

 でもこれ、四分の一じゃなくて八分の一くらいなんだよね」

「ほー」


:涼ちんがめっちゃ興味深そうに見てる


「やっぱり赤身が強くて、脂が少なめな感じだね」

「そうなの。その辺りは一般的な七面鳥と似た感じなんだよねー」


:ふつうの七面鳥の肉質に詳しい高校生コンビ

:どこでそういう機会があるんだ?

:この二人が特別なだけでしょ

:冷凍ターキーをドラム缶油に投げ込むアメリカ人より詳しそう

:言われてるぞアメリカ人

:《翻鶏》さすがにそのコメは訳さねぇからな?


「さて、涼ちゃん。目が覚めたならお料理手伝ってくれるよね?」

「もちろん!」


:キラキラ笑顔

:かわいい

:守りたい二人の笑顔

:まぁ基本二人に守って貰う側の市民ですが

:超人にならなくても笑顔は守れるだろ?

:超人にならなくてもマザーグースにダメージ通せる人もいるしな

:出来るワケねーだろ

:イレギュラーモンスターにダメージ通せる一般人とかおるん?

:↑涼ちゃんねるスタッフのカオルくん

:カオルくんまじかよ

:あれは参考にしちゃダメ

:彼は逸般人枠だから

:超人化せず素手で凶悪なエロ目玉を平気で倒してるからな・・・

:カオルくんはどうでもいいのでエロ目玉について詳しく


 いつものように与太話で盛り上がっているコメントを横目に、涼は腕まくりをしながらキッチンへと入っていく。


「ディアさん。何をすればいいです?」


 涼に問われて、ディアは少し待ってと答えてから、今し方取り出したばかりのお肉はSAIにしまった。


:あれ?片付けちゃうの?


 コメントだけでなく、涼もそんな感じの顔をしている。


 それを見たディアは――


「今のは何の処理もしてないやつだからね。事前に下拵えしてきたのがあるんだ」


 ――そう答え、SAIに触れた。


「う~ん、スタッフさんや、いつもの乱入パターンを考慮して……四つかな」


 最悪、多く作りすぎてしまっても涼と香が食べるだろうという算段で、袋に入ったお肉を四つ取り出す。


 一応、下拵えしてある肉はまだ予備がある。

 しかし、配信時間を思えば四つで十分であり、限界だろう。


「ブライン液に漬け込んできたんだ」

「うん。まぁ塩水に軽くハーブ加えた程度のモノだから、ブライン液と呼んでいいか微妙だけどね」


:しらん単語がさらっと出てくる

:そして二人は説明せずに進めていく

:《モカP》ダシとハーブ、スパイスを加えて一度煮立ててつくる調味液。ローストチキン等を作るときにこれに生肉を漬け込む手法をブライン法と呼びます

:モカP解説さんきゅー

:なんで配信者が説明ぶっちするんですかねぇ・・・

:《モカP》生肉のまま塩水につけておくと肉のなかに水分が浸透してなんやかんやで火を入れても水分が飛びづらくなるのでパサつき軽減効果もあります

:なんやかんや

:まぁ詳細説明されてもわからんしなw

:とりあえずお肉を柔らかく焼ける方法なんやな


 などとコメント欄でモカPが解説してているのを見向きもせずに、ディアは取り出した肉の一つを洗い、まな板の上に置いた。


 それから、横向きの切り込みを入れる。


「このお肉に、こうやって、切り込みを入れてもらってもいいかな?」

「りょーかい。詰め物(スタッフィング)もするんだね」

「そういうコト」

「わかった。ならそのつもりで袋状になるように切ってくね」


:これですよ

:切り込み一つで作る料理を推察し必要な処置ができるとか

:涼ちんのスパダリ素養

:いやスパダリ素養ならディアちゃんもなかなか

:くッ、ここに涼ディアかディア涼かの戦争の火種が・・・!

:状況によって常に入れ替わるから争いの炎にはならなそう


 そんなコメントのやりとりが見えたのだろう。

 ディアはカメラに視線を向けて笑う。


「ちなみに涼ちゃん、炊事掃除洗濯ちゃんと出来る子だよ。

 ついでに学校の成績も悪くないらしいし、何より運動はみんなも知っての通り」


:マジで完璧超人でござったか

:鶏肉狂いというどうしようもない欠点があるが

:裏を返せば鶏肉を与え続ける限りスパダリってコトでは?

:鶏肉を与え忘れなければ人間の味方し続ける怪異っぽい

:スパダリモードが当たり前になり鶏肉の奉納が疎かになると・・・

:置物になって役立たずになります

:別に人をとって喰ったりしないしなー


「そうですね。人を食べるくらいなら、どっかで鶏を食べてきます」


:デスヨネー


 などというやりとりをしながらも、涼はささっと肉に切り込みを入れていく。


「ところでディアさん」

「なに? 涼ちゃん」

「気のせいじゃなければ、さっきから――」

「ストップ涼ちゃん。モカPがカンペだしてる」

「えー、なに? 別に無視して良くない?」


:久々の不満系低音

:ありがとうございます

:やったー!捗る!

:これで娘の病気も治るというもの

:なんか最近なかったもんな

:そもそもふつうの配信が予定変更パターン多くてw


「……危なかった。モカPのカンペがあって助かった」


:お?どうした?

:これはあれか番組的に伏せておくネタを口にしかけたかw

:まぁもも肉オンリーとはいえローストターキー作ろうとしてる時点でね笑

:料理人や料理好きの視聴者なら気づいてるハズw

:なんだろう?

:あー!

:さすがにそれを口にするのはマズいwww

:すごいな全く分からん


「迂闊に口にしてたらボクの分だけ除いて次の料理が提供されるところでした。死活問題ッ!」


:力強い決意を感じる

:揺るぎない意志を感じる

:圧倒的な意志のチカラを感じる


「さて涼ちゃん。作業をささっと進めていくよー!」

「はいッ!」


:受け答えがハキハキしてるw

:急に軍人レベルのキビキビさ

:やはり鶏肉か?鶏肉が全てを解決するのか?

:むしろ解決する為に鶏肉をエサにされているだけでは?


「詰め物はこちらですね。これも事前に準備してあったりします」


 小さなジャガイモをニンニクやハーブと一緒に焼いたもの。

 みじん切りのタマネギに、マッシュルームなどのキノコ類。

 それからローズマリーやセージなどのハーブ。


「パンは入れないの?」

「意外とあれって好み分かれるみたいなんだよね。なので今回は食べ慣れないゲストも居るだろうからナシで」

「オレンジやリンゴなんかのフルーツ、シナモンを使わないのも?」

「うん、同じ理由。日本人ってあんまり果実ソースや、果実で風味付けされたおかずって馴染みがないでしょ?

 まぁ幽庵(ゆうあん)焼きとか思えば無いわけじゃないんだろうけど、レモン的な方向の甘みのない果実味じゃない。どれも」

「言われてみるとそうかも」

「サツマイモやカボチャのリンゴ煮みたいなのはあるけど……それってどちらかというとスイーツ寄りのメニューだろうし」

「そう言われると、甘い卵焼きや甘い茶碗蒸しも、味付け的にはスイーツ方向かもしれませんね」

「そうそう。なので、今日の味付けはシンプルに」


:この気遣いよ

:確かに俺も苦手なんだよな詰め物系ローストの中のパンって

:というか例題に色々出てくるのがすごい

:甘い卵焼きはともかく甘い茶碗蒸し??

:どっかの地方だと甘露煮の煮汁とかで茶碗蒸しのダシ作ってるって

:正気かよ 甘い茶碗蒸しとか茶碗蒸しとして認めねぇ!

:↑そのケンカ買ったぞ!(甘い茶碗蒸し地方

:↑こっちからしてみると甘みのない茶碗蒸しの方が正気じゃねーわ!!


「さてコメント同士のケンカはさておいて、これを詰めていきます!」

「任せてくださいッ!」


:さっきまで置物だったとは思えないやる気

:目がキラキラというがギンギンw


「詰め終わったらたこ紐で縛ります。本来は足とか縛るのに使うんだけど、今回は中身がこぼれないようにってコトで」

「りょーかいッ!」


:おなか開けたワケじゃないから狭いだろうしなぁ

:涼ちんが詰めやすいように切ってたみたいだけどさ


「終わったらフライパンで表面を焼きます」

「任せてくださいッ!!」


:目がハートというか目が鶏

:鶏子になっちゃってるわね

:常にだろ


「滲み出た油を回し掛けながら」

「良い感じの色になるように!」


:ああああああああ

:やばいジュージューいいだしてきて急に映像が!

:良い感じの焦げ目が焦げ目がぁぁぁぁ


「全体に焦げ目が付いたら、耐熱バットにあけます」

「寝かせるんですねわかります!」

「いいえ。フライパンに残った油を掛けます」

「掛けます!!」


:涼ちゃんのテンションおかしい

:いやでもやはり肉が焼ける様子は涼ちんでなくともテンションおかしくなる


「そしてこいつをオーブンへ!」

「オーブンへ!!」


:完全に親のマネする子供wwww

:でも動きは玄人なの草

:完コピに近い動きしてんだよなぁ…


「そして三十分ほど焼きます!」

「はい! 三十分ほど焼き……え?」

「どうしたの?」

「……そんなに、待つの……?」


:直前までの落差w

:一瞬にして絶望に落ちた笑


「じゃあ、ロースト食べなくていいの?」

「……食べる」


:完全に子供のそれww

:ディアちゃんのあやしがほんともう笑笑


「そんなワケでオーブンをセットしたワケですが」

「……うん」


:ちょっと拗ねてる?

:鶏肉絡むとホント幼児化するんだから(笑


「すでに焼き上がったモノがこちらにあります」

「……ッ!!」


:目どころか顔ごと輝いたぁぁぁぁぁ!


「っていうかさっきカンペにあったでしょ?」

「……完全に忘れてました……」


:忘れるのがちょっと速すぎないかな…

:これが本当の鶏頭ってか


 すでに焼き上がっていたのをディアが切り分け始めるのを見て、涼の機嫌は完全に回復するのだった。



【Idle Talk】

 フライパンで焼いて、オーブンで30分前後のタイプにするか

 オーブンや釜などを使って4時間じっくり火入れするか悩んでこのパターンに


 この回は体調崩してた関係で、調べはしたものの配信しながらの調理手順などの考察せずライブ感覚で書いているので色々問題あったら申し訳ない


 あと体調崩しててストックに余裕を持たせられなかったのと、本作とは無関係なんですが商業関係のお仕事が発生しているので、ここからはちょっとペースダウンしていくかもしれません


 重ね重ね申し訳ないけれども、 ご了承をば……。

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4時間待機配信は…このメンバーなら撮れ高無限にありそうではあるかw ゆっくりお待ちしてますー!
甘い茶碗蒸しは蒸しプディングでしょう。 プディングの元々の意味を考えれば、茶碗蒸しもプディングなのですよ(笑)
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