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涼 と 配信 と シャークダイル


 ぽにゅぽにゅ――と、涼は寝ているシャークダイルの不思議なふくらみを持つほっぺたをつつく。


「く、くせになりそう……!」


 なんとも言えないつつき心地だ。

 やりすぎると、起こしてしまうだろうから、我慢しなければならないのが辛いと思うほどに。


:ヘソ天サメワニ…

:突然のASMRにやられてたがサメ可愛いな

:冷静になったら可愛いサメと可愛い涼ちゃんがいて冷静

:戦わないのかよおもんな

:え?これシャークダイル?

:つついてる涼ちゃん可愛いしつつかれながら寝てるシャクダ可愛い

:シャークダイルが可愛い……だと……

:可愛いからなんだってんだよ

:やばいシャクダに彫れそう


 だが、あまりにも魅力的な寝姿なのだ。


 お腹を上に向けプカプカと浮かび、お腹の上で手を重ねるようにヒレを重ねている。尻尾はだらりと垂れているのに、時々左右に動く。


 口を閉じている時も可愛いのだが、涼がつんつんとほっぺたをつついているうちに口が少し開いて、そこからペロンと舌がだらしなく出てきている。


「これのデフォルメされたぬいぐるみとか欲しくなる」


 涼の囁き声にリスナーは身悶えしつつも、理解をしめす。


:わかる

:寝顔キュートすぎる

:ほしい

:涼ちんASMRも

:誰か作って

:俺たちは何を見せられてるんだ

:↑どっちを

:可愛いシャクダちゃん

:寝てるとはいえこんな接写できるもんなんだな

:↑どっちも

:可愛い涼ちゃん

:涼ちゃんの寝顔ぷりづ

:めっちゃ写メってるwww

:そりゃ撮るだろww


「む? はなちょうちん?」


 それに気づいた涼が素早くスマホを構える。


:鼻提灯に高速反応w

:ふくらんでるww

:かわええっww

:こんな可愛いシャクダを食べようだなんて!

:食べるの!?!?!なんで!?!?

:ディアちゃんが食べたがってるww

:誰だ喰うとかいいだしたの?

:割れたら起きちゃうのかな?

:なんかフガフガいってるwww

:愛らしいコカトリスのヒナ食ってるしな

:ディアちゃんさぁwww

:ワブでアラブっておられるw

:ヒナ解体は阿鼻叫喚でしたね

:涼ちゃん覚悟のシャッター連打ww


 ひとしきり写真を撮って満足した涼は、ドローンのマイクに口を付けて、再び囁く。


「はなちょうちんに加えて舌をだらしなく出している姿は初めてでテンションあがってました。

 そろそろスキルの効果も切れそうなので、ここから離れます」


:ゾワゾワきた!

:りょ

:長文ありがたい

:OK

:捗る

:テンションあがってても引き際わかってるのいいね

:りょ

:あんだけ我を忘れたようにシャッター切っててスキルの効果時間把握できてるのすごい

:OK


 涼の動きと、コメント欄の様子をダンジョンの外から見ている香は――今後とも涼はコメント意識させない方がいいかも……などと考えたりしていた。


 実際のところどうするかは難しいところなのだ。

 ファン心理リスナー心理としては、コメントを拾ってもらえた方が嬉しい。


 ともあれ、涼は寝ているシャークダイルを放置したまま階段へと戻り、フロア5へとあがっていく。


「そういえば以前この階段を上りきった時に、シャークダイルに追われた大角ディアさんと出会ったんですよね」


:あのときはありがとう涼ちゃん

:おかげでディアちゃんのスプラッタ見ずにすんだ

:推しのスプラッタ見るの辛いんよな……

:俺はコイツのスプラッタみたい今すぐ

:スプラッタ推しとは仲良くできる気がしない

:ディアちゃん助けてくれてありがとう


 階段を上りながら、ふと口にした涼にお礼のコメントがついていく。

 コメントを見ているわけではないのだが、涼はあの時のことを思い出しながら続けた。


「正直、シャークダイルはフロア6からのモンスターなので、ふつうはフロア5にはいないハズなのであの時は驚きました」


:ディアちゃんも言ってたな

:イレギュラーってやつか

:帰り道で涼ちゃんも出会ったりしてな

:フラグたてんなやw

:フラグたt は?

:あ

:お

:は?

:え?


 階段エリアの出口が見えてきた。

 ドローンがその出口を映し出す。


 そこには――


「なんでいるの?」


 ――またもシャークダイルが泳いでいた。


:ほらフラグ

:フロア5にいないんじゃないの?

:やばくね?

:いや涼ちゃんなら!

:スプラッタくるー?


 それを見ながら、涼は難しい顔をする。


「困りました。位置が位置なので戦闘回避は難しそうです」


:出口真ん前だしな

:勝てるの?

:強がんな

:食われろー

:涼ちゃんだいじょぶ?


「なので――」


 涼は大振りのナイフを抜き放ち、構える。


「とっとと倒します。

 モカP。ドローンの位置どり気をつけて」


 そして――フェイントから、即座に側面へ移動。

 目への攻撃をして、身悶えさせてしまえば、あとは簡単だ。


 ディアを助けた時とほぼ同じパターンの攻撃を繰り出して、瞬殺して見せた。


:はや

:マジかよ

:シャクダって弱いん?

:見慣れない戦い方だ

:ふつうに強いはず

:そういやディアちゃん助ける時も倒してたじゃん

:涼ちゃんが強い

:スキルの使い方が面白い

:サメ弱すぎおもんな

:スプラッタ好きは帰ってどうぞ


 涼は倒したことを誇りも気負いもせず、唐突に顔を上げる。


「あ、そういえばスマホ見てなかった」


 コメント欄も突然のことに、「急にどうした?」というようなコメントで埋まっていく。


「実はモカPから配信中に指示を出すかもしれないからスマホは時々見ろって言われてたんですよね。完全に忘れてました」


:今更w

:もう帰宅途中じゃんw

:おおとりのバトルも終わったぞww


「あ、ディアさんがシャークダイル食べたがってるんですね。じゃあ、持ち帰りましょうか」


 そういって、涼は左腕に付けていたシンプルな腕輪の宝石を撫でた。


:涼ちゃんのSAIは腕輪型か

:実際腕輪が一番邪魔にならんしな

:指輪は武器を持つとき邪魔だもんな

:首飾りやピアスは?

:使うとき撫でないといけないから面倒だろ


 それから左手を倒れたシャークダイルに向けて掲げると、腕輪ついた宝石の中に吸い込まれて消えていく。


 SAI(サイ)と呼ばれるこのアメ玉サイズの宝石の詳細はわかっていない。

 だが、今のようにその中にモノを収納できる機能が備わっている為、探索者にとっては必須の装備となっていた。


 マンガやアニメなどのエンタメが好きな層は次元収納などと呼んでいる通り、親指の爪ほどの宝石の中にシャークダイルがまるまる入ってしまう程度に、見た目と中身が一致していない。

 原理は不明であるが、日本に限らず各国で研究されているのはいわずともがなだ。

 未だどの国も再現はできていないようだが。


 さておき――ダンジョン探索者としての資格を得ると、ギルドがご祝儀としてSAIをくれるので、持っていない探索者の方が少ない。


 宝石の形でくれるので、装飾品に加工してくれる業者に依頼する必要があるのが手間とは言えば手間だ。

 加えて、その収納容量はマチマチで、どんなサイズなのかは使ってみないとわからないという面はあるので、色々とクレームも多いらしい。


 ただでもらっておいてみんな文句が多いな――と涼は思ってたりするのだが、口には出さない。


「モカP。これどうすればいいかわからないから、大角ディアさんに確認しておいて」


:丸投げ

:モカぴーとやらファイト

:美食家としては助かるけどw

:涼ちゃん食べにくる?

:え?いきなりコラボるの?

:くんな。きえろ

:お前がくんな。きえろ

:一部があらぶってんなぁ…


「あ、なんかモカPからLinker(リンカー)届いた」


:丸投げしたからかな

:怒られ?

:お説教?

:よそうはつくというか


「事務所に所属してる配信者との外交案件を気軽に投げるな。うちは個人配信な上に今日がデビューの新人だぞ――だそうです」


:怒られキター

:それはそう

:しってた

:それはそう

:モカぴーとやらがんば

:残当

:それな

:ですよね


「まぁともあれここにいても仕方ないので、エントランスへと戻ろうと思います」


 行きと同じようにスニーキングスキル全開にした涼は、無事にエントランスへと到着するのだった。


【Idle Talk】

 SAI(サイ)の正式名称はSeek Assist Item。

 直訳すると「探索を手助けしてくれる道具」。

 誰が呼んだのかは不明だが気が付くと世界中でこれが定着している。

 宝石のままだと使いづらいので、腕輪などのアクセサリに加工してみんな使っている。

 スキルの発動などもアシストしてくれているという説もあるが詳細は不明。まぁ便利だからいいじゃんぐらいの感覚でみんな使っている。

 まだまだ未知の部分が多いダンジョン産の宝石である。

 最近、ドロップ率も納品率が減ってきているらしく、ダンジョン庁と探索者協会では、無料配布を終了するかどうかの検討をしているらしい。



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[一言] 鮫は旨い、ワニも旨い、皮のない鶏肉みたいである。(調理実体験済) つまり、唐揚げ案件である。 通りすがりに失礼しました。
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