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episode 20 一撃 -デリック視点-

お待たせしました。ジャブ程度ですが、デリックのざまぁ回です


 舐めやがって……魔力全開で一撃かまして終わりだ。

 ちょっと遊んでやろうと思ったが、俺の厚意を無視しやがった。クソデブをぶちのめさねぇと気が収まらなくなった俺は、ギグドラーンを構えて走りながら大きく振り上げる。



「これで終わりだぁぁ!!!」



 カキィィン!!



「相変わらず初手はこれなんだ……変わらないねデリック」


「……な!?」



 俺のギグドラーンが、あんな細い剣の……鞘で受け止めやがった……。それも驚いたが、こいつ……今普通に喋りやがったぞ……。

 い、いや……そんなのは序の口だった。



「て、てめ……その姿」


「君には理解出来ないよ。説明したところでね」



 このクソデブ……体が光ったかと思ったら一瞬で痩せやがったんだ。ただ痩せたって訳じゃねぇ、しなやかな筋肉がついてやがる……それに、こいつ……本当に剣を抜きやがらなかった。

 余りにも予想外の展開に、俺は一度距離を取る。


 何なんだこいつは……。



「クレイド・バルック、この名前に聞き覚えはあるかい?」


「……あ? 知らねぇよ」


「君にオーガ退治を依頼した人間だよ」



 ん? ああ、そういやそんな奴いたな。



「どうして依頼を断ったんだよ。困ってる人を助けるのがギルドの冒険者、勇者じゃないのかい?」


「あ? 何俺に説教垂れてんの? てめぇも変わらねぇなクソデブ!」


「おおっとぉぉぉぉ!! 両者睨み合いが続いております!! さあさあさあ!! どっちから仕掛けていくんだぁぁぁぁ!?」


「答えてないよ。どうして断ったのかって僕は聞いてるんだ。魔物の被害報告や、大量発生報告は無償で受けなきゃいけないはずだ。どうして受けなかったんだよ」


「ったく、うるせーな!! そんなの他の冒険者がやりゃあいいんだよ!! 勇者はもっと大きな問題を解決しねぇといけねぇんだよ!! そんな細々したの受けてたらキリがねぇだろうがよ!!」


「デリック……君、勇者名乗る資格ないよ。授かった力はみんなの為に使わなきゃいけないんだ」


「な、なな……んだとぉぉぉ〜!!! もう我慢ならねぇ!! 好き勝手言いやがって!! おい、レエナ!! 聞いてんだろ!! もっと力を寄越せ!! こいつをぶちのめせる力をな!!」



《さっきの一撃でレエナ分かってしまったのです……。今以上は勇者たんの負担になってしまうのです! 魔力不足でコントロール出来なくなってしまうのですぅ!》


「そんな事はいいからさっさと寄越せよ! クソ幼女精霊が! てめぇ、応援するって言っただろうが! ああ!? 言ったら最後まで付き合えよクソが!!」



《はうぅ〜。もうどうなっても知らないのですよぉ〜!》


「やっぱり君は、精霊の恩恵を受けているみたいだね。その聖剣は自分の力で使い熟せるようにならなきゃダメだ」


「いちいちうるせークソ野郎だなてめぇは!! また説教か!! ああ!? てめぇも得体の知れねぇ力に頼ってんじゃねぇのかよ!! 膨れたり萎んだりしやがって!! 気持ち悪ぃんだよ!!」


「そうだよ。僕も偉大なる力を借りてる身だよ。だからこそこの力を誰かの為に使おうと思ってるんだ」



 あ? だったら同じじゃねぇかよ。俺も世界の為に力を使おうってんだ。


 ギュワワワワーン!


 お、レエナの呪文詠唱が完了したみてぇだな。

 力がまたさらにグンと増しやがった。これなら行けんぜ!



「うおぉぉぉぉ〜!!!! ほぉら!! どうした!! さっきの俺の一撃を防いだって事は魔力は備わってるみてぇだが、次はもうそんな奇跡は起こらねぇから覚悟しておけよ!!」



 勇者の秘剣、超絶グランドスラッシュをお見舞いしてやる。

 人間に使うなんざ思わなかったが、奴が死のうが知ったこっちゃねぇ。あのクソデブ無能野郎は俺の逆鱗に触れたんだ。

 殺したら失格って言うなら失格でも構いやしねぇ。



「ぶっ殺してやっからよぉぉぉ!!!」



 俺はありったけの魔力を全てギグドラーンに注いだ。



「いいかクソデブよく聞けよ!! 勇者はな、世界の希望なんだよ! 魔王を倒せるのは勇者であるこの俺だけなんだ!! その為に多少の犠牲は必要なんだよ!! ああ!? 仲間ってのはその為にいんだ!! 勇者に最高の一撃を繰り出してもらう為に盾になんだよ!! 俺はただ勇者の使命を全うしようとしてるだけだ!!」



 決まった。この上なく超絶ド正論だ。



「勇者の為に、最高の一撃を繰り出す為に仲間が勇者を守る……確かにそうだね」



 へっ、やっと認めやがったか。当たり前だクソ野郎。



「だけどそれだけじゃ勇者なんて名乗れない。勇者がみんなから支えられているなら、その支えられた力で今度はみんなを支えてあげるのが勇者。多少の犠牲? ううん、僕ならそんな事は言わない。1人も残さずに救う。その努力をするのが勇者なんじゃないのかい?」


「い、いつまでもベラベラ喋ってんじゃねぇぞぉぉ!! これで喋らなくしてやんぜぇぇ!!」



 俺は全魔力が込もったギグドラーンをまた振り上げながら大きく跳躍した。



「超絶!! グラァァァァァァァァンド!! スラァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッシュ!!!!!!」



 スカ。

 振り下ろした先にあいつがいねぇ。何処行きやがったんだ?

 俺がそう頭で考えていた時間は限りなく0秒に近い1秒だった。腹に違和感を感じて目線を落とす。


 鞘の先が俺の腹に減り込んでやがる。鞘の腹と辿っていくと、奴の腕、体、頭と見えた。

 奴は俺の最高の必殺技をかわしただけじゃなく、カウンターで合わせて反撃しやがったんだ。


 そんで、次の1秒で重たい衝撃が体全身に走る。



「うぶぉ!?」



 俺は空高く吹き飛び、派手に地面に叩きつけられた。

 背中を強く打ち付けて息が出来ねぇ。腹が……俺の腹が貫かれちまった……そう思うぐれぇの衝撃だった。


 今回もあのクソ野郎は剣を抜きやがらなかった。



「あっでぇぇぇぇ〜うぉぉぉいっでぇぇぇーーー!?!?!?!」



 何か言葉に出してねぇと気が紛れねぇ……強烈な痛みがまだ消えねぇんだ……何なんだこの痛みはよ……。

 ゴロゴロと地面を転がりながら腹を抱えて苦しむ俺の姿を、何百人と言う人間に見られてしまっていた事を、今更気づいてしまったんだ。


 くそぉ……くそぉぉぉぉ〜。


 こんな事が……こんな事が……こんな事があってたまるかぁ〜。

 



 





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