episode 11 その頃、デリック達は3 -デリック視点-
ダメだ……。
何回魔力を送っても何の反応もしやがらねぇ……。
くそっ! やっぱあいつらを倒さねぇと帰れねぇのかよ。
「グルルアァァァ!!」
「!?」
背後からいきなり1匹のボムパンサーが俺に向かって突進して来た。振り向いて身構える間もなく、俺はまともに体当たりを食らってしまう。
バキィィ!
「ひぃげぇぁっ!!?」
派手に地面を転がった。くそ……たった一撃なのに何と言うダメージだ……体に力が……起き上がれねぇ。
いつもならあんな攻撃なんざビクともしなかったのに、あのボムパンサーは変異種だったりすんのか……。
「……は!?」
俺は今ミンシャと同じ事を思ったのか。まさかパーティー全員同じ状態……? ステータスの低下なのか?
「い、……い……ゃ、ち……ちが……ぅ」
こいつはステータスが低下してるんじゃない。
俺達がずっと強かったのは…………。
本当にあの野郎の……アステルの魔術の恩恵だってのか……?
「1人で逃げるから罰が下ったんだよデリック」
と、セラは無表情で俺を見下ろす。
「て、……めぇ。な……に、そこ…………つっ……立って…………早…………助けろ……よ」
「助けろ? 私って貴方の仲間だったの?」
そう来たか……。ちっ、クソ面倒臭ぇ女め。
「分か……った。はぁはぁ………………」
一旦息を整えて口を開く。
「せ、セラ、俺が悪かった。お前らは俺の仲間、キングスナイトのメンバーだ」
「随分早い心変わりだね。魔方陣が反応しなくて、帰れなくなった?」
お見通しって訳か。
「さっきの暴言、あれが貴方の本音なのですか?」
「い、いや……ミンシャ違うんだ、俺は」
「ならば何故、私達を置いて逃げようとしたのですか?」
「そ、それはだな……何と言うか」
今大事なのは周りの魔物どもを倒す事だ。分かってるのか? 今は非常時だぞ? こんな事を言い争ってる場合じゃねぇ。全滅すんだぞ?
と、その時ふと白い虎の近くに倒れてる獣人に目が止まった。そうだ……あいつに操られてたとでも言っとけばいいか。
「す、すまん……実は声が聞こえ」
そう俺が2人に説明しようとした時だった。
《……やっとあたしの波長に合わせてくれたか勇者》
何処からともなく俺に向かって語りかける声がしたんだ。
女の声だが、セラやミンシャの声じゃねぇ。少し離れてボムパンサーに囲まれて身動きが取れなくなってるリースの声でもねぇ。
何処からだ?
この広いフロアを見渡すが、そんな人間はいなかった。
「だ、誰だ!?」
ま、まさか……あそこに倒れてる獣人か?
俺があの獣人に意識を向けた途端、声がしたな。
《邪悪な魔導士によってそこの白虎と共に封印されちまったんだ。あたしは魔導士の呪いで地神の力が封じられてる。白虎はあたしの半身なんだ。今は獣と化してる。頼む、あたしの呪いを解いてくれ》
「い、いきなり何なんだてめぇは!? 呪いを解けだぁ?」
《勇者のあんたがここにやって来た事で、封印が弱まってる。こうしてあの霊牢を割って出て来られたんだが、そこで力をほとんど使い切っちまった……。霊牢から出た事で止まっていた時間が動き始めた。一瞬の内に老化が進み、魔力も尽きかけてる。このままだと魔導士の呪いに抵抗出来ずにあたしは消滅してしまう》
「てめぇは……精霊なのか」
《あたしは地の精霊、ウル。もうじき消滅する。あたしが消滅すると地属性の柱〝地神柱〟が失われ、世の均衡が崩れ始めるんだ。他の神柱にも影響が出てくるんだよ。これを防げるのは勇者であるあんただけ。ずっと待ってたんだよあんたを》
「呪いを解けって……何をどうすりゃ。そんな魔術知らんぞ」
《何冗談言ってるんだよ。あたしと魂の契約を結ぶんだ。勇者なら知ってるはずだろ? 魔力を取り戻せば、自力で呪いを解ける。今、あたしの残り少ない魔力を使って白虎の力を押さえ込んでる。魔物達も動けないようにしてるから、この隙にあたしの呪いを解いてくれ》
魂の契約って言や、勇者が精霊の力を借りる為にやるあれか? だが、こんな老耄と契約して得られる力なんてたかが知れてるだろ。
ただでさえ今奴隷どもの世話で大変だってのにこんなババアの面倒なんてみてられるかよ。
「おい、ウルとやら。ここから地上に戻れる方法はあるのか? そこの魔方陣は俺の魔力に反応しなかったぞ」
《……結界が張られてるな。だが簡易結界だ。あんた勇者だよな? 結界破れないのか? ……………………これで魔方陣が使えるよ》
このババアは今俺を馬鹿にしたのか? 気になるがここから戻る事が出来るなら今は目を瞑っておくか。
俺はすぐさま魔方陣に入り、魔力を送ってみる。
すると青白く光が地を滑っていく。ババアの言った通り、魔方陣が使える状態になってるぜ。
よし、じゃあ戻るか。
《勇者!? あたしと契約をしてくれるんじゃなかったのか!?》
「ああ? いつ俺が契約するなんて言った? そんな情けねぇ魔力で俺の役に立つ訳ねぇだろ。てめぇもそこの奴隷どもと一緒だ。スカスカのババアなんかに用はねぇよ」
「デリック、貴方本気で私達を置いて帰るつもりなんだね……少しでも貴方の心変わりを信じてしまった自分を憎むよ」
「デリック!!! よくもあたし達を裏切ったね!? 恨んでやる!! 呪い殺してやる!!」
「失望です……まさかここまで最低な人間だったとは思わなかった。いや、仲間を見捨てるなど人間ですらない!」
「へっ! 何とでも言え。それに口の聞き方には気をつけるんだな。万が一にもてめぇらが地上に戻って来れても、てめぇらに居場所があると思うなよ。俺の力で徹底的に潰してやるから覚悟しておけよ」
まあ、てめぇらが戻って来れたらの話だがな。
「くっくっく……ぐわっはっはっはっ!」
奴隷どもが俺を睨んでやがると言うのに実に爽快な気分だ。
自分達じゃどうしようも出来ねぇ事、絶対的主人だった俺に裏切られた事、本当に辛かっただろうな。
だがな、てめぇらは俺の駒なんだよ。俺が要らなくなったらいつでも捨てる。
勇者ってのはな、世界を魔の手から救う使命があるんだ。
その道のりで勇者がピンチになった時には、てめぇらが犠牲になって道を作るんだ。
「じゃあな、クズども! くっくっく……」
笑い声をこの場に残しながら俺は地上へ向けて消え去った。
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