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episode 1 パーティー追放


「おいアステル、役立たずの無能豚野郎。てめぇの剣聖のスキルを寄越せ」



 僕の名前は、アステル・ランドベルク。


 アルヴァニア王国の冒険者、クラスは剣聖で勇者パーティー〝キングスナイト〟の一員だ。

 僕は今、Sランクの魔物討伐依頼達成の祝杯で酒場に来ていた。

 テーブルを囲って仲間達と楽しく食べたり飲んだりで、本当にいつも通り何も変わらない1日の1コマ。

 だけど今回は違った。会話がピタッと止まったタイミングで急にドンッと乱暴に1枚の紙が僕の前に置かれたんだ。


 そこにはスキル継承の儀式、〝継承の儀〟について書かれてあり、名前を書く欄が2つ用意されていた。

 お互いの合意の上で、ある者がある者へスキルを継承出来る儀式。

 儀式と言ってもそんな堅苦しいものじゃなくて、紙切れに名前を刻めば能力が吸い取られるんだ。

 あとは継承したい人間が呪文を唱えればスキルを継承出来る。


 僕の剣聖をこの儀式で奪い取って〝スキル無し(ようなし)にして、キングスナイトから追放する気なんだな。



「さっさとこれにサインしろ」



 そう言って酒を呷ったのはデリック・ヴィルドール。幼馴染で僕と同じ18歳。

 聖剣ギグドラーンに選ばれし正真正銘の勇者だ。

 人は10歳になると神託を受け、女神ミレイネス様から才能スキルを授かる。

 僕は剣聖を授かり、デリックは勇者を授かった。

 勇者とは世界の希望、人々に勇気を与えし者。他の才能なんて必要ない程多彩な剣術、魔術、治癒術を扱えるし、勇者だけが装備できる聖剣ギグドラーンは、古の巨悪魔サイクロプスを真っ二つにしたと言う伝説がある。まさに人類で最強の武器を持つのが勇者なんだ。



 だけどいくら勇者であっても、鍛錬を怠ればその才能は活かされない。彼は聖剣ギグドラーンを使い熟せていなかったんだ。修行を怠り毎日女の子と遊んだり、貴族が泊まるような高級な宿を何泊もして、高い料理を食べたり……いや、別にそれを悪いって言うんじゃないんだよ。


 ちゃんと修行して勇者として使命を果たさないといけないって思うんだ。

 瀕死になった魔物にトドメを刺して俺最強とか言って毎回いい気になってる。



「あの、で、デリック……そ、そそその……」


「あ? んだよ。言いたい事があんならハッキリ言えよ。デブ」


「も〜デリックったらデブだなんて、本当の事言ったらアステル可哀想……」



 そう言ってデリックを止めるのはハイプリーストのセラ・エスフェルド。彼女も同じ18歳。ピンクのショートヘアが似合う水色の瞳をしたスレンダー美人。

 その治癒術は世界でも5本の指に入ると言われており、中でも体力の限界を引き伸ばせる【オーバーヒール】と言う技術を編み出した凄い女子。

 可哀想なんて言いますけど、全然そんな顔していらっしゃらないんですがね……あなた。

 確かに僕は太っていた。いや、それもね、話せば長くなるんだけど……。



「セラ、デリック様は嘘がつけない正直なお方なのですよ。デリック様、そんな事より今日のお宿はどちらにされますか? 早く終わらせてミンシャと熱い夜を楽しみましょう」



 ミンシャ・グロウシャルム。彼女も18歳。と言うよりこのパーティーみんな同い年なんです。

 彼女はスペルダンサーって言うクラスで、踊りと魔術を組み合わせた独特な戦い方をする。セラとは対照的な美で、スタイル抜群のきょぬー女子。

 お色気ムンムン漂わせて踊る姿は人間のみならず、魔物でさえもトリコにしてしまうんだから本当色んな意味で凄い子なんだよな。

 コーヒー色した髪の毛を巻いて1つに束ねてるんだけど、小麦色の首筋が見えてそれを見るだけでも……僕なんかは満足。こんな事直接言ったらぶっ飛ばされそうだから、これは心の中だけの話。そしてまるでそんな僕の心の声を聞いたかのように黄色い瞳でギッと強く睨まれ、僕は萎縮してしまう。



「ねえアスデブ〜早くサイン書きなって。デリックに剣聖渡すべきだよ。だってあんた戦闘中もうほとんど動いてないじゃん? キャッハッハッハ!」



 リース・シャオルン。お団子黒髪ヘアの武闘神。肉体を武器にして戦う格闘と言うジャンルにおいての神だね。彼女の一撃は勇者の一太刀に匹敵するとも言われてるぐらい、物理破壊力に関してはトップクラス。

 彼女も含めみんなデリックのイエスマン。

 デリックが決めた事には何にも疑わないし、正義だと思ってる。

 まあ勇者だしイケメンだし、女の子の扱いが上手いし僕とは真逆の世界にいるのが勇者デリックだからな。

 今改めて気づいたけど、ハーレムパーティーじゃないか……。

 


「こんなデブでブサイクで、まともに会話すら出来ねー吃り野郎が、剣聖なんてスキルを使い熟せる訳ねーんだよ。だから俺が使ってやるっつってんだろうが。ああ? 戦闘もほぼ棒立ちじゃねーかよ! クソが!」



 と言ってデリックは顔を近づけて来る。酒臭ぁ……。

 いや、こう見えても僕は剣聖の腕前は確かなものだと思うよ? Sランクの魔物を狩れているのは間違いなく僕がいるから。

 でも彼がそう思うのも無理もないなって事が1つだけあるんだ。


 剣聖のレベルが上がって来ると、全ステータスを底上げする【十聖闘気陣】を覚えるんだけど、丁度その時期ぐらいからデリックだけじゃなく、他の仲間も修行をしなくなっていったんだ。僕が支援魔術を使っていた事も気が付かずに彼らは自分達の実力だと思ってね。

 

 最近の戦闘じゃ剣聖なのに後ろで支援魔術をかけるだけ。お陰様で支援魔術の技術だけ上がっちゃって、もう支援魔術士バッファーだよ。

 ただ彼らはそんな風には思ってなくて、何もせずにぼーっと後ろで突っ立ってるだけだって思ってる。

 だったら使わないでおこうかとも思ったんだけど、今僕らが扱ってるギルドの討伐依頼ってほとんどがSランク。

 そんな凶暴な魔物との戦いには【十聖闘気陣】は必須になってる。

 仮に使わなかったら、彼らは即死……どころじゃなく下手すりゃ姿形も残らないんじゃないかな……。


 だから今日は本当の事を言おうと思うんだ。



「じ、じじ実は……み、み、みんなにい、言いたいこ、こことがああるんだ」



 って言うと、当たり前だけどみんなが僕の方を向いて黙った。

 そんなに睨まれたらさぁ……話そうとしても喉元で何故か止まってしまうんだよな。



「ぼ、僕の……その……さ、ささサポートスペルに、【十聖闘気陣】ってい、言うのがあ、あって……」



 【十聖闘気陣】攻撃力、防御力、魔力、精神力、行動力、反応力、命中率、クリティカルヒット率、HP(体力)MP(魔法量)この10個のステータスが、最大で術者のレベルの10倍の値まで増大させる事が出来る非常に強力な魔術なんだけど、難点があってこれ使ってる時、僕は動けなくなるんだよな。

 これをいつも戦闘中にかけて支援に回っている事を彼らに伝えたんだけど……。



「それじゃあ何? 私達の強さは貴方のその魔術による恩恵で、いつも強化されていたってそう言いたいの?」



 セラが冷たく返して来た。

 僕はそれに何も言わずにコクッと頷いたら、みんな沈黙した。

 その後、和音のようにデリックを皮切りにバカ笑いが重なっていく。



「てめぇはいつから魔法使いになったんだよ。ぶわーっはっはっはー!! つくならもっとまともな嘘をつけよデブ!」


「あたし達の実力はアスデブのバフのお陰だってー? キャハハハお腹痛い! こりゃ脳みそまで脂肪だわ!」


「増強魔術はハイプリーストである私がかけてるの。貴方は戦闘に入るといつも何もしてないじゃない。デリックに渡したくないからそんな嘘ついたんでしょ?」



 貴方は、その増強魔術さえまともに使えてませんよ? Sランクの魔物が相手なのに未だに最下位のプロテクションしか覚えてないセラちゃん。……と言うかみんなある一定のレベルから一切強くなってないんだ。勇者も、ハイプリーストも、武闘神も、スペルダンサーも、今じゃ肩書きだけ。

 魔術どころか魔力の使い方も忘れてしまってるんだよ。

 でも僕のこの【十聖闘気陣】さえあればみんな今の強さを保っていられるんだ。Sランクの討伐依頼はハッキリ言ってとんでもなく大変。辛いのは分かってるから、みんなが喜んでくれるなら、少しでも楽になれるなら、そう思ってやって来たんだけど。


 なんかそれが裏目に出たんだな。

 あと、剣聖のスキルをデリックに渡したとしても、使い熟せるとは到底思えない。

 そう思うんだけど何せデリックは世界でたった1人の〝勇者〟だから彼の言う事は、国王の言葉と言っても過言じゃないぐらい重く大きいって事は分かってる。



「早くしてもらえないですか。勇者様の命令ですよ? 分かってますか?」



 ミンシャの言う通り、つまり僕が断る事はできないって事。

 お互い合意の上って言いつつ、相手が勇者なんだからこの時点で決まってる事。



「…………わ、わかった……渡すよ」



 紙に手を置いて魔力を送るとアステル・ランドベルクって光の文字が走った。

 その後すぐに僕の体から光が紙に向かって流れて行く。

 剣聖のスキルがこの紙の中に入ったんだ。今この時を持って、僕は剣聖じゃなくなった。

 

 デリックが紙に書かれた呪文を唱える。

 それは僕の剣聖スキルを継承する為のもの。光は紙からデリックの体の中に入って行った。



「ったく、たらたらトロいんだよてめぇはよ」



 両手を握りしめ、勇者なのに悪者が見せるようなニヤけた笑みで僕を見る。

 もう一度言うけど君には扱えない力だよ?



「これでてめぇは完全なるただのデブだ。デブでブサイクで無能なてめぇにいる場所なんてねぇよ。パーティーの品も悪くなるしな。てめぇは今日限りでキングスナイトをクビだ。とっとと消えろ。役立たずが」



 こうして僕はスキル無しとなり、勇者パーティーから追放された。

 しかし、この出来事をキッカケに人生は僕の想像もしていない斜め上を進んでいく事になるのであった。


 しかも、この後直ぐに……。

 




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