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君と自分

君と自分


 触れた唇に伝わる温度と感触に頭が支配される。そのまま押し倒された自分はベッドの上で自分に覆い被さる彼女の顔を見る。シーリングライトの明かりで出来た彼女の影は自分を飲み込み、その向こうでコケティッシュな笑みを湛えていた。


「ねぇ。しようか?」


 そう問うた彼女は自分の指を口に咥えてこちらを誘った。


 彼女の美しく、色っぽい仕草に何もかも忘れて彼女が欲しいと思った。けれど自分はそこで彼女の誘いを断った。


「ダメだよ。ゴム持ってないし。」


 その言葉に彼女は不敵に口元を綻ばせた。自分の唇を手でなぞり頬へと手を滑らせていく。胸元をなぞり、そして制服のスラックスへと手は向かう。ゆっくりと動くその手は自分の欲望を誘引してくる。


「いいよ。柊君だってしたいんでしょ?」


 自分は彼女の手を止めるとゆっくり起き上がる。


「ダメだって。体は大切にしなきゃ。」


 そう言って自分にも言い聞かせる。このまま彼女と関係を持つのは不誠実な気がして、彼女の幸せを考えれば無責任なことは出来なかった。しかしその態度が気に入らなかったのか、眉を顰めては彼女はあからさまにため息をついた。


 ベッドから足を下ろした自分は上がった心拍数を下げようと彼女から距離を置く。ベッドに放置された彼女は広く空いたベッドに仰向けに寝転がった。


「あーあ。なんかしらけちゃった。柊君って意気地なしだね。」

 

「本当はしたいくせに。」

 

 天井に投げたその言葉に自分は反論したくても出来なかった。心の奥底では彼女の魅力に堕ちてしまいそうだった。堕ちてしまいたい自分もいた。けれどそれは違うと思えた。贖罪だからと言い訳を並べて彼女を欲望のままにすることは自分の道義に反することで、今度はばかりは流されるわけにはいかなかった。


 「欲しいものはね、手に入れてられる時に手に入れないと後悔するよ。」


 彼女はそう言うと目を閉じていた。キャミソールから出た細く長い手足を見る度に彼女の魅力に取り込まれそうで、目を伏せた。


「今日は帰るね。」

 

 そう言って立ち上がると彼女は「分かった。したくなったら言ってね。」ベッドに女の子座りをしてはこちらを試すような言い振りでニヒルな笑みを浮かべる。


 自分はまともに答えずに「ちゃんと戸締りしてね。困った時はいつでも相談に乗るから。」と言い残し扉を開けようとすると、彼女はわざとらしく自分の背中に向けて言葉を残す。


「あ、そうだ、今度はゴム、忘れずに持ってきてね。」


 彼女はどんな顔で言ったのかは分からない。けれどそれは自分に対しての挑発であったことは間違いない。逃げるようにして家を出ては、門扉をくぐる。


 ふと彼女のいる2階を見る。明かりのついた2階から人影が見えると焦ってすぐにその場から立ち去った。


 彼女の考えは分からない。しかし彼女の変わってしまった理由に自分が関係していたことは、どうにも自分に罪の意識を植え付ける。すっかり夜の帳が降りた夜道に等間隔に並ぶ街頭に誘導されるように歩く。


 ぼんやりと彼女での部屋でのやり取りを思い出しているうちに、どうしようもない羞恥心と罪の意識が押し寄せてくる。ぐちゃぐちゃになった感情を抑えられずにその場でしゃがみ込んで「うわぁ。」と声を漏らす。


 夏の終わりは段々と近づいている。近くで聞こえるひぐらしの声は自分の葛藤の声を掻き消していく。彼女とまた会った時にどんな顔をして会えばいいのか。


 彼女の苦しみに、痛みに、そして闇にどうやって向き合えばいいのか。永遠に解けることのない難題を与えられたような気がして、自分はその場でしばらくうずくまった。


 時間が解決することもあれば、時間がかかれば手遅れになることもある。この時の自分は時間に頼った。過ぎる時間が全てを解決すると、そう言い聞かせては、また誤魔化しを続けた。

痛みは時間と共に‥


これにて柊君とは一旦お別れです!


次は誰でしょう!!

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