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スマッシュ!アタック!

スマッシュ!アタック!


 着いたファミレスではとりあえず一番高い鰻丼ダブルを注文して、食すると、デザートに白玉クリームあんみつと、季節限定のマンゴーパフェを頼んだ。


 あいつはこともあろうに、「アイスだけなんだけど。」とごねてきたが、無視して注文する。あいつは目の前で消えていくデザートに自らの手持ちが消えていくのを重ね合わせたのか、ついぞ観念したようにため息を吐いては財布の中身を確認していた。とりあえず食べ終わると、皆それぞれ談笑していたが、あいつがお手洗いに席を立ったその時を見逃さなかった。


 素早い反応で店員を呼び出し、追加で宇治抹茶味のかき氷を注文する。帰ってきたあいつの前では何食わぬ顔でスマートフォンを見ていたが、いざ注文した宇治抹茶味のかき氷が到着すると、あいつは、「え!また頼んだの!」と驚きと呆れたように手で頭を抱えたが、私は気にしない。


 これぐらい食べても平気なのだ。脳を酷使した私には糖分と冷却が必要なのだ。キーンと頭にくる刺激に思わずこれこれと思いつつ堪能しては、全てを完食した。


 その後一行は県立公園の体育館を予約して借りているらしく、体育館に向かった。体育館ではバレー、卓球室での卓球にそれぞれ興じた。


 無論私は見学。


 というつもりだったが、あいつがうるさいので渋々参加してやった。バレーではネットを挟んで女子三人チームを相手にジャンプサーブを情け容赦なく叩き込み、卓球では女子チームに入っては負けた方がジュースを奢る約束を取り付けては、横回転サーブと、YGサーブを駆使しては、女子になら楽勝に勝てるだろうという甘い見込みの男子達を木っ端微塵に粉砕した。


 廊下のベンチで勝利の美酒ならぬ、オレンジジュースを飲んでいると、松田が話しかけてくる。


「いやー。轟さんがあんなにも運動神経に長けていたのは驚きだ!中学時代は何かスポーツでもやっていたのか?」


「水泳とテニスはやっていたな。まあプロになるとか目標もないからやめたよ。それにお金を稼ぐなら楽して稼ぐのが一番だ。」


「ふむふむ。なかなかその才能はもったいないと思うがなー。どうだろう今からでも我がハンドボール部に‥。」


「無理。めんどいから。」


 即刻拒否すると、残念そうにずっこけた。


「まあそれに今はコンピューター研究会に所属してるもんね。」

 フォローするようの結城が間に入ると松田も「そうなのか。ならばやむを得ん。」と頷いた。


「そうだな。それに最近は割と忙しい。コンピ研でも幽霊部員扱いになりそうでそろそろ活動実績でも残しておきたいところだな。テキトーに情報オリンピックでも参加して成績残せば部費も上がるだろうし。そうすれば上がった部費で古びたパソコンの買い替えも可能だろう。さすればその貢献大な私は部員から崇め奉られることは必至。クックック。」


「いや顔怖いよ。轟。」


 いかん。思わず表情が緩んでしまったのを元に戻す。


「しかし、普段は前髪下ろしてるのに、今日は後ろに髪を纏めて結んでるんだね。」


「まあな。気合い入れる時と、スポーツをやる時はな。さすがに前髪は邪魔になる。」


「へー。轟でも気合い入れる時とかあるんだ。」


 壁にもたれかかってはペットボトルのスポーツ飲料を口にした弓木は澄ました顔で言う。胸元が開いたノースリーブのサマーニットに、タイトなジーンズで佇む姿はスタイルの良さが目立つ。しかしその様子がなんか無性に腹に立つ。そもそもお前の為にやってやってるんだぞ。と言ってやりたいところだが、喧嘩するなとあいつがうるさいので自重するつもりではあるが、どうしてもチクリと刺してやりたくなる。


「まあな。でも今日の弓木の格好はどうなんだ?胸元開けて胸を強調してるみたいだが、ボリュームでは圧倒的に結城に負けてるぞ。」


「はあ?別に強調してないし!そもそもかなみは関係ないでしょうが!」


「まあまあ。二人とも落ち着いて。」


「そうだな。ユミッキーの格好もなかなかセクシーだが、結城ちゃんの爆乳具合はだいぶ凄かった。今でもこの手に柔らかい感触が蘇る。うふ、うふふふ。」


 恍惚として不気味に笑う松田は完全に変態だ。ボディーラインが目立たぬようにか、ゆったりしたデザインの七分袖の白のブラウス、ボトムスはデニムショートパンツの結城の体を下から上へと舐めるように視線をぶつけては、もう堪え切れないとばかりに松田は結城の胸をまさぐろうと画策し、結城を壁に押し付けて迫ろうとしているが私には関係ない。


 自販機横にあるペットボトル入れのゴミ箱に捨てると、まだ卓球をしている男子達の方に戻ろうかと階段を登っていると、後ろから弓木が声をかけてくる。


「ねぇ!」


「ん?なんだ?松田なら放っておけ。しばらくしたらあいつの暴走も収まるだろ。」


「別に違うって。」


「じゃあなんだ?」


 そう聞くと弓木は言いづらいのか眉間に皺を寄せては、手をぎゅっと握る。


「あーもう!一回しか言わないからね!いつもありがとう!そう言いたかったの!」


 その言葉が言いたくてもプライドが高い弓木はなかなか言い出せなかったのだろうか。それでも口に出した言葉は確かに私に届いた。正直言ってむかつく女だが、性根までは腐ってないらしい。そこに対して私はどうも素直になれるほど真っ直ぐな人間ではないらしい。それでも私は言葉を返す。


「ああ。まあ別にいいよ。むかつくやつがいるからやってるだけ。暇つぶしだから。」


 そう言って片手を上げて「じゃあ先に戻るから。」と言って後ろを向く。


「あ!忘れてたけど、犯人のやつ‥絶対見つけるから。どうやって懲らしめるか。考えておけよ。」


 そう言い残して向こうを見れなかった私は階段を登りながら不器用な弓木の必死な顔を思い出しては、なんだか心がくすぐったい気持ちになる。


「あれ?トドロッキーどうした?なんか笑ってるけど、嬉しいことでもあった?」


 戻った私に気づいたあの馬鹿は余計なことにはすぐ気づく。


「うるさい!馬鹿!どうせ家の手伝いばっかりでなまってるでしょ!そして進藤も!本ばっかり読んでないで運動しろ!そしてそこのそいつ!なんか知らんけど卓球下手すぎ!みんな纏めて相手してやるから、かかってこい!」


 完全なる八つ当たりだが、もどかしい感情の行き場には丁度良かった。三人が疲れて床にへたった頃にはさすがに私も息が切れて膝をついた。

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