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捜査官!轟舞!

捜査官!轟舞!


 遂に尻尾を出したかと、気分が高揚した。数少ない手がかりの中で犯人を探す為にアビュワールドというゲームにアカウントを作ったり、ゲームのサーバーのハッキングをしたりと、色々やってはみたものの、結局は目立った成果は挙げられず、骨折り損のくたびれ儲け状態だったこの数ヶ月を巻き返す絶好の機会だ。


 ノートPCに出てきたスマートフォン端末は私の知っている全校生徒のスマートフォンのどれとも違っていたが、間違いなく弓木芽衣に仕込まれていた、遠隔操作アプリを起動させた犯人はこの近くにいる。敢えて放置しておいた餌にまんまと食いついてくれた。


 これを逃す手はないと、通信状況から相手の位置情報を割り出す。現在位置はなんと県立公園近くのカフェだった。どうやら犯人も弓木が異性とプールに行くというイベントには嫉妬せざるを得なかったらしい。


 私はすぐに私物を取り纏めて、佐藤に「目的のやつが見つかった!とりあえず探してくるからお前らは適当に時間潰してろ!」と伝言を残すとすぐに更衣室に行ってシャワーを浴びてから水着から私服に着替える。


 この大きな唾の帽子に似合うように、ネイビーのプリーツワンピースをチョイスしたが、走りやすさを考慮すればパンツスタイルの方が良かったかと、若干の後悔をしつつ、ものの数分で着替え終えた私は目立たないように心掛けつつも、小走りでカフェの方へと向かう。


 相手の位置情報をスマートフォンに映した画面を片手にスピードを早めると、肩にかけたトートバッグの中でノートPCとその他の小道具類ががちゃつくのがよく分かる。


 精密機械をこんな風に雑に扱っては故障の元になりかねないが、今はそんなことも言ってられない。カフェ近くに来ると、私はスピードを落として辺りを見回す。テラス席にはこの照りつけるような日差しを嫌ってか、ほとんど客は見当たらず、がらんとしているが、外から見るに中の方は盛況なようなだ。


 私はスマートフォンに視線を落としては、犯人の位置情報を確認する。犯人はこのカフェ周辺を動いておらず、周辺の建物の位置関係からすれば間違いなくこのカフェで様子をうかがっているのは間違いない。


 犯人像としては弓木のことを個人的に知っている人間である可能性が高いと考えて、学校の同級生を中心に探りを入れてきたが、弓木が中学生時代に県内の陸上競技界隈では有名であったことを考慮すれば、犯人は同級生とも限らないのかもしれない。


 一方的に感情を募らせたストーカー犯という可能性を考えれば、犯人像はより広範囲に及ぶ。目立つ帽子をトートバッグに押し込むと、サングラスをかけて店内に入る。幸いお昼前の時間帯であったために空いていた二人掛けテーブルへと案内された。


 私は周辺を警戒しつつも、座席に着くと探知したスマートフォンへとマルウェアを仕込もうとノートPCを開く。店員が持って来たアイスカフェオレを一口しては犯人のスマートフォンにマルウェアを仕込みが完了すると、すぐさまバックドアを開く。


 インカメラの管理権を奪取すると、すぐにノートPCの画面に犯人のインカメラを映す。すると、そこには犯人の顔はなく、テーブルの裏面らしき景色が映る。


 それを見た私はようやく犯人が既に逃げていることに気づく。内心敵の素早い対応に毒付きたくなるが、負けを認めるにはまだ早いだろう。おそらく店内に残されたスマートフォンを回収すれば様々なことが分かる。そう考えを切り替えた私は、犯人が居ないのならもういいだろうとばかりに、堂々と店内を歩き回ると、家族連れのテーブル席の下に落ちているスマートフォンを見つけた。


 あくまで自分の落とし物のように家族連れにアピールしてスマートフォンを回収する。今すぐにでも内部の情報を解析したいところだが、残されたスマートフォンにマルウェアを感染させる罠が仕掛けられていてはたまらない。ここは慎重にと、自身の肝に銘じては、遠隔操作で地道に犯人のスマートフォンの情報やマルウェアが仕込まれていないかチェックしていく。案の定いくつかのトラップが仕込まれていたが、このくらいは朝飯前だ。


 全て解除し、スマートフォンがクリアになったとこで、本体の情報を探っていく。こちらが逆探知したことを気づいた段階で、スマートフォンを物理的に破壊して捨てることも出来たろうに、わざわざ残していくあたりはなまじ知識がある上に自信家なのだろう。


 犯人像は固まりつつあったが、対象者に近づきたいという感情的な一面があるかと思いきや、追跡者を弄ぼうという余裕すらも感じる。犯人は二面性のある人物なのか。と頭を捻らせていると、私物のスマートフォンにメッセージが届く。


 相手はあいつからだ。


「今からファミレスで食事するけど、来れるか?」「犯人なら後回しでいいぞ。無理するな。」と連投でメッセージが来る。自分で頼んでおいて無理するなとは自家撞着だと思うが、それもいつものことだ。「無理だ。忙しい。」と返信しようと思った矢先に、またメッセージが来る。


「ちなみに飯は奢るから。今日はアイスも好きなだけ食べていいぞ。」


 そのメッセージを見た私はスマートフォンでフリック入力する手が止まった。


 なんたることだ。


 私はいつもこの罠に引っかかっては苦労する。この前もお礼にご飯を奢るからと誘われて、結局また仕事が増える。このパターンの戦略は何度も見てきた。あいつの思考パターンなどお見通しなのだ。


 こんな幼稚な手に引っかかるまいと、毎回思う。毎回思うのだが‥率直に言おう。


 私は無料とか、奢るとか、そう言った言葉に弱い。


 めっぽう弱すぎて、一回フィッシング詐欺に引っ掛かった経験がある。


 私自身も今振り返るとあまりに愚か過ぎて完全なる黒歴史だ。ちなみにそのフィッシング詐欺はフィリピンのサーバーを経由した詐欺だったが、あまりに頭にきたので、全てのサーバーをダウンさせて、地元警察に犯罪の証拠と組織全員の名前と顔写真付きで通報した。


 それもあってかあえなく全員逮捕となったが、この出来事の一番の苦い思い出は父のカードをこっそりと使っていたこともこの事で露見してしまい、こっぴどく父に怒られたことだ。


 それ以来は、父のカードを使うのはやめて、ダークウェブを介して犯罪シンジケートの隠し口座からお金を奪っては、仮想通貨で運用してそこそこの資産を形成している。


 まさに怪我の功名とはこのことだ。あのフィリピンの詐欺グループにも上手い使い道はあったということだ。まあ大規模な金額が日本で動くと不審がられるので、日本で使えるのは微々たるものだが、それでも日頃の活動には不自由しない。にも関わらず目先の無料や奢りに引っかかる私はいまだに成長出来てないのやもしれない。


 私はノートPCを閉じて席を立つ。会計を済ませて外に出ると、不快な熱風が肌に纏わり付く。

 

 私はその茹だるような暑さを理由に、あいつらがいるファミレスに向かう。これは奢ってもらえるから行くのではなく、良好な交友関係の構築と疲れた体に冷たくて甘いものを摂取する必要があると判断したからだ。


 決して目先の無料や奢りに誘引されたのではないと自分の心に言い聞かせる。不思議と足取りが軽くなっていたのは気のせいだろう。

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