キャットミーツガール
キャットミーツガール
「よし!ではお風呂に行こうぞ!ミルク!」
そう言って洗面所に行くと、なんの躊躇もなく制服から下着まで脱ぎ捨てる。程よい筋肉と、女性的な体つきを両立した体型の彼女を見て思わずゴクリと唾を飲んだ。
「おっと、これは外しておかねばね。弓木くんこれをもっていてくれるかね?」
なぜ私の名前が弓木くんという男性ポジション的呼び方なのかは謎なのだけれど、その疑問を呈する間も無く白猫から外した赤い首輪を受け取る。
一糸纏わぬ姿で、白猫を抱き抱えては洗面所から風呂場へと入っていた。その姿を見送った私は部屋に戻ろうかと廊下の方に歩こうとした時、ふとこの赤い首輪に既視感を覚える。
金の名札を見て私はようやく気づいたのだ。
この猫は間違いなく大山氷川神社で出会った白猫だ。やけに人懐っこくて街を自由きままに闊歩する猫の飼い主が、同じクラス松田さんだったとは驚きだが、それと同時に名付け親も松田さんだと想像すると妙に納得がいく。
真っ白な毛並みから想像されるこの猫の名前がミルクとは安直ではあるが、似合っている。
名前からして雌のような気がしたが、雄であるのはちょっと意外だが。とりあえず猫と松田さんのシャワータイムの間は何もすることがないと、部屋に戻ろうとすると、彼女はいそいそと脱ぎ捨てた下着と制服をかき集めてきちんと畳むと、洗面所の床にタオルを敷いては、スマートフォンで「猫 ドライヤー」で検索をかけている。
なんと健気で献身的なのだろうか。一家に一人、彼女が欲しい。
「猫のドライヤーの掛け方調べてるの?」
「うん。まずはタオルで水気を拭いて、それから近づけ過ぎないように風を当てつつ、コームで毛をとかしてながら乾かすんだって。」
「ふーん。コームって使ってないやつとかあるの?」
「えっとね。お父さんが使わなくなったのがある気がする。まあ、最悪使ってるやつでも後で買っておけば大丈夫。」
「そうなのね。でも松田さんが自分でやるんじゃない?猫の扱いは慣れてるだろうし。」
と言うと残念そうに首を振る。
「それは甘いよ。芽衣ちゃん。あゆみちゃんのことだよ。猫ちゃんだけ預けてお風呂に入るに決まってるじゃん。」
それを言われると反論の余地はない。猫のドライヤー動画を見る彼女とともにやり方を研究していると、浴室の扉が開いて湯気がもくもくと湧いてくる。湯気から顔を出した松田さんは「ミルク洗い終わったから預かってもらっていい?」と案の定こちらに託してきたので、タオルを広げて白猫を受け取る。「すまんなあ。私もしばらく温まってから手伝うからね。」と一応の謝罪の言葉を言い扉を閉めた。
私はすっかり大人しい白猫をタオルで拭いてやると、ぺたんとなっていた毛並みがツンツンと毛が立ち上がる。
「よし。じゃあ芽衣ちゃんがドライヤー当てて、私がコームでとかすから。」
「分かった。」
そう言って白猫が逃げないように押さえつつドライヤーを優しく吹きかける。そうすると彼女が風の当たる場所を丁寧にコームを当てがって毛をといていく。白猫は慣れているのか、嫌がるどころから大きなあくびをしてリラックスしている。
「じゃあお腹の方やろっか。芽衣ちゃんがバンザイさせて、私がドライヤーとコームやるから。」
そう言われた私は白猫の前脚の付け根を持ってお腹を見せる。
「よーし。いい子だねぇ。すぐ終わるから待ってねー。」
猫撫で声の彼女の声が理解出来ているのかは定かではない。無防備に持ち上げられた白猫は垂れた私の毛先を時折おもちゃのように弄んだが、すんなりとドライヤーをかけさせてくれた。
「よし!完成!!我ながら上出来!」
彼女が満足そうに白猫の眉間を撫でてやると、彼も気持ちよさそうに目を閉じた。
「ほんともっと暴れるかと思ったけど、大人しいね。」
「うん。ほんと聞き分けの良い子みたい。うちも猫飼えれば良いんだけどね。親があんまり動物とか好きじゃないみたいだから、こんな風に猫ちゃんと触れ合えるのは嬉しい。」
「そうだね。あ、首輪つけてあげないと。」
私はポケットに仕舞い込んだ首輪を白猫につけてやると、ぶるぶると体を震わせて伸びをした。
そうして綺麗にしてくれたお礼をするように、彼女の足に擦り寄って撫でて欲しいアピールをする。それにまんまと引っかかった彼女は顎や、頭部、お尻の近くなど撫でてやると、ゴロンと転がりお腹も撫でるように要求してくる。それを柔らかい笑顔で応じると、満足そうに気持ちいい顔をしている。
「ほんと随分と人懐っこいね。」
「ほんと、可愛い。部屋に連れて行こうか。ここだとあんまり遊べないし。」
そう言って彼女は白猫を抱き抱えては、使ったタオルを洗濯かごに入れて自室に戻る。
見知らぬ部屋で見知らぬ人間に抱き抱えられても全然抵抗しないこの白猫の警戒心の低さはどうしてだろうと、思わず考えてしまう。この前会った時もすんなりと膝の上に乗ってきたし、もしや生粋の人たらしなのでは?と邪推してしまう。
部屋に入ると、すっかり彼女のことを気に入ったのか、私との思い出は忘れたかのように彼女の膝の上でリラックスしている。しばらくは猫の可愛さに癒されていると、お風呂かれ上がった松田さんがバスタオル一枚、湯気を肩から纏って仁王立ちしている。
「ど、どうしたの?あゆみちゃん。」
「結城ちゃん、つかぬことを頼むのだが、聞いてくれるか?」
「えっと、事と次第によっては。」
「うむ。下着を借りたい!」
「ダメです!絶対無理!」
即答だった。間髪入れずに拒否だった。
「んーん。私と結城ちゃんの仲なら可能かと思ったのだが。ならば相手を変えよう。弓木くん。いやユミッキー!パンツを借してくれまいか!」
「え‥。」
これは冗談なんだよね。と松田さんの方を見返すがその見開いた両目には虚偽のかけらも見当たらない。
「ダメダメ!それじゃ芽衣ちゃんの履く下着がなくなっちゃう!」
「ではトレードでどうだろう?フィフティーフィフティーのフェアトレードだ!最近買ったばかりだし、ちょっとエッチなやつだが、大人っぽいユミッキーなら似合うだろう。」
大真面目に言ってるのか、大真面目にふざけているのかが皆目検討のつかない私はとりあえず首を横に振る。
「んあー。それでは全滅か。帰りもあの下着を履いて帰るのはなんだかもったいない気がしてな。せっかく身綺麗になったのに、一度汚れた下着を再度履くのはどうにも。んーんならば、履かないで帰るか!うん、そうしよう!風が吹けば桶屋が儲かると言うが、風が吹けば、私のあられもない姿を見て殿方のあれが盛り上がる。というわけだな!ハッハッ!」
大胆過ぎる。というか自分で言って笑える強心臓恐るべし。と言うか公然猥褻で捕まらないか心配だ。
「だ、ダメだよー!ちゃんと下着は履いて!」
「んーんしかしだな、こればっかりは私のポリシー的に譲れない。」
私としてはポリシーよりもデレカシーと、法律を守ってほしいと切に願わざるを得ない。
「んもーー!!じゃあ私の下着貸すよ!」
やむにやまれぬとはこの事なのだろう。私に下着を見せるのをあれほど嫌がった彼女は渋々クローゼットの中の下着を入れた衣類整理袋から、下着を取り出す。
「ほら。ちゃんと履いて。」
恥ずかしそうに突き出したその片手には、ピンクの布地が見えた。
「おお!これはかたじけない!んーん。花柄のショーツとはなかなかのセンス!布地が多くてしっかりと恥部を隠せる安心設計だな!無論、透け透けの無防備なショーツも好きだぞ!」
思いっきり開いて観察する松田さんに恥ずかしさから顔を覆うかなみを可愛いと思ってしまう私も同罪なのだろうけど、堂々と性癖をばら撒くこの女は本当に恥知らずなのか、愚かなのか真意は分からない。
正直言って内心では悪態をついてしまったが、松田さんのおかげでかなみの下着を見れたというお得感は拭えない。その意味では感謝すべきなのだろう。
「うん。履き心地も抜群だ!それと結城ちゃんの香りもするぞ!」
もうこれ以上の変質者ぶりを披露するのはやめてあげてくれと懇願したくなるくらいの変態さに私も苦笑いを浮かべるしかなかった。
匂いフェチって‥ね‥笑




