===夏の日===
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今から四年前の夏のことだ。
魔女は十六歳だった。この頃はまだ目が見えていた。
育ててくれたばあやが亡くなって三年が経ち、生計も軌道に乗った頃である。
旅人が森に迷い込み、夕立に追われるように魔女の屋敷に辿り着いた。
いずれも若い男であった。
人好きのする、体の大きい男はウィルトス。
物静かな、細身の男はアラン。
それから少々生意気な少年は、ソルと名乗った。
濡れ鼠の彼らに宿を提供した。彼らはフゥとヤァを可愛がった。
時にぶつかり、熱心に意見を交わしあう、そんな三人の化学反応を傍目に見ていて、魔女は刺激を受けたものだ。
森に入った目的を魔女に尋ねられ、少し生意気そうな少年ソルは言った。
『森の奥に伝説の剣が眠っているから、それを取りに行く』
『どうしてそれが必要なの?』
するとソルは、あどけなさが残る顔でニッと笑った。
『黒い魔法使いを倒すために必要なんだ』
『黒い魔法使いを倒す……へぇ』
黒い魔法使いなら魔女も知っていた。魔法使いの集会で会ったことがあるからだ。
こんなひょろっこい男の子が太刀打ちできるのだろうか。黒い魔法使いと呼ばれるに至ったあの黒光りする容姿を思い出して、敵わないだろうなぁ、と魔女は簡単に思った。
『反応薄っす! お前、嘘だと思ってんだろ。冗談じゃねぇよ、俺たちは本気だ。このまま放っておいたら、魔物が闊歩し、暴力と腐敗に支配された世になる。あいつの企みを打ち砕き、この世に安寧と光をもたらすのが王の務めだ』
『王?……あなた、王様なの』
『見えねぇか? これでも生まれながらに白星の祝福を受けた王様だぞ』
『そう、』
胸を張って断言され、王様であることは信じた。態度や話し方に偽りは見えない。そもそも嘘をつく人物には見えなかったのだ。
されど、ひっかかる部分がある。白星の祝福発言である。
屋敷の本棚に、白星の祝福の物語が所蔵されている。
きら星の国のお話で、白馬の王子が、呪いで眠りにつく姫をキスで目覚めさせるお話だ。
やがて結婚し、深く愛し合う王妃と王の間に授かった待望の子。
産声と共にきら星が舞い降りて、白い祝福を贈ったという。
それは希望の星
世に安寧をもたらし、
人々を導く存在となる。
という内容だった。
御伽噺などどれも似たような話と、魔女は深く考えたことはなかったが。王の話が本当なら物語は部分的に事実を語っていることになる。生まれた時に星が祝福を贈る場面だ。
かさねて、黒星の祝福について思いを巡らせた。
こちらも生まれた時に星から祝福が贈られる場面がある。
白か黒かが、違うだけだ。




