===夏の日=== 4
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『目が覚めたか』
魔女が目を開くと、アランが覗き込んでいた。
心配そうに見降ろされるこの状況も、うれしいのになんだか恥ずかしい。目を合わせていられなくなって、辺りを見渡した。自室のベッドの上だった。
『気分はどうだ』
『大丈夫……ごめん、なんか色々迷惑かけた』
『気にするな。指は縫合しなくても大丈夫そうだ』
アランはいつも通り……ではなかった。王に向ける物腰優しい語り口だったのだ。今までは魔女に対して距離感のある語り口であったから、うれしい半面、くすぐったい。包帯の巻かれた指を見て、怪我も悪くないと思った。
『それはよかった』
微笑む魔女を見て、アランは言った。
『食べられそうなら、スープを温めなおそう』
スープと聞いて、魔女の頭の中に再びもやもやが出現した。ばあやの献立をどうしてアランが知っているのか、という事だ。
先ほどは考えに耽って怪我をしたが、このまま問題を放置しておける魔女ではない。
(沈黙に前進なし)
今まさに手前勝手に作った言葉であるが、胸にストンと落ちた。
『ありがとう。お願いしようかな』
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スマートに給仕されたスープとソーダブレッド。
懐かしい香りが鼻をくすぐった。
向かい合って席に着く。
二人きりの食事だが、気持ちは落ち着いていた。
『アランは食事を待っていてくれたんだね、ありがとう』
『気にするな。デアに付いていたかっただけだ』
何とも嬉しいことをスマートに言うものだ。
人好きのするウィルトスは息をするように女心をくすぐることを言うが、下心がまるわかりであったから聞き流すことが出来ていた。しかしアランは下心が全く見えないのだ。思ったことをそのまま伝えてくれているのがよく分かった。普段言葉が少ない分、一つ一つに力があるのだ。
想う心がほろほろ解けて、アランの心に絡みついてしまうような感覚だ。それをアランの心も拒んでいないような気がするのだ。
『冷めないうちに食べてみてくれ。このスープとパンは俺の家に代々伝わる秘伝のレシピなんだ』
スープもパンも、美味しくて懐かしい。ばあやが作ってくれたスープとパンが完全再現されていた。