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引きこもり魔女と硬柔騎士様の幸福論  作者: 段数マーカー
10/33

===夏の日===  3

 三日目の夕食は、アランが作っていた。

 持参のレシピ本を広げ、きっちり計って作業している。

 献立は干し肉と香味野菜のスープと、ソーダブレッドであった。


 魔女はほとんど上の空で手伝っていた。その内心では、混乱を来していたのだ。

 なぜなら、その献立は、ばあやの作ってくれた料理と同じ名前で、使う材料も調味料も全く同じであったからだ。


(なぜ、アランはばあやのレシピを知っているのだろう)

 悶々と考えていた、その時だ。香味野菜と一緒に指を切ってしまった。

『いっ』

 吐息のような、小さな声だったのに。

 アランは異変に気付き、すぐさま駆け寄って傷口を診た。

 血は瞬く間に腕まで伝っていった。

 魔女は血を拭う布を探して、近くをあたふた見渡していたときだった。また、誰かが怪我をした腕を奪った。

 そこにいたのは、ウィルトスだ。

『俺が手当てしてやるよ』

 パチッとウインクされ、勢いに圧されて魔女が頷きかけた時。今度はアランが腕を奪った。

 状況が掴めない魔女はアランとウィルトスを交互に見つめるばかりだ。

 アランとウィルトスは、ただ、真剣な瞳を静かにぶつけ合っている。

 そんな二人の間で、魔女はだんだん息が苦しくなっていた。指を切った時から軽いめまいがしていたが、加えてアランとウイルトスの喧嘩が勃発しそうで怖かった。

 ばあやに育てられた魔女にとって、男性の好戦的な側面に耐性がなく、この時、かなりの精神的負担がかかっていたのだ。

 その時である。更にとんでもない事が起こった。なんとアランは、いまだ血が滴る魔女の指先を、口に含んでしまったのだ。


 この時、魔女には時間が止まって見えた。

 否、実際止まっていたのかもしれない。


 指先に触れる、柔い唇。

 伏せられた瞳、長い睫毛。

 罪な指はアランの息遣いさえ感じ取って、これでもかと胸を圧迫した。


 魔女は強烈な眩暈を覚えた。天井が回り、地面が動いている。体が自分のものではなくなってしまったようだった。景色が歪む、アランの端正な顔立ちまでもひしゃげていく。


『……嗚呼、』


 魔女の意識が、ぷつりと途切れた。



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