主役になりたい太郎くん
太郎くんはおとぎ話が大好きです。お母さんやお姉ちゃんに毎日、色んな絵本を読み聞かせてもらっています。
「ぼくもおとぎ話の主役になりたいなぁ」
太郎くんはいつも、そう思っていました。
◇
ある日、太郎くんはお姉ちゃんに言いました。
「お姉ちゃん、ぼく桃太郎になる。サルとキジと、お隣のチビと一緒に鬼退治にいくんだ」
「何言ってるの。太郎はお母さんから生まれたんだから、『桃』太郎じゃないでしょう? それにお隣のチビは、トイプードルじゃない。鬼と戦わせるなんて、可哀想よ」
お姉ちゃんにそう言われ、太郎くんはしょんぼりしました。けれど、すぐに元気を取り戻して言います。
「それじゃあぼく、金太郎になる。『まさかり』を担いで、熊と勝負するんだ」
「あんたねぇ、『まさかり』っていうのは木を切るためのとっても大きな斧なのよ。そんなのを持って回ったら、重いし危ないじゃない。熊だってぬいぐるみは可愛いけれど、本物は凶暴で怖い生き物なのよ。危ないから絶対やめなさい」
太郎くんはがっかりしましたが、すぐにぱぁっと顔を明るくします。
「なら、一寸法師になる。一寸法師なら針とお箸だから、危なくないでしょ?」
「一寸っていうのは、今で言えば三センチぐらいの大きさよ。太郎はこの間、身体測定で背が伸びて大きくなったって喜んでいたじゃない」
お姉ちゃんの言葉に太郎くんはがっかりして、うつむいてしまいました。
落ち込んだ太郎君はお姉ちゃんの側を離れ、部屋の隅でしょぼくれていました。
「太郎、どうしたの?」
「あっ、お母さん」
太郎くんはお母さんに、お姉ちゃんに言われたことを話しました。うんうん、と頷きながら太郎君の話を聞いたお母さんは、太郎くんに優しく微笑んで言いました。
「太郎、おとぎ話の主役はみんな、色んなことを一生懸命に頑張ったの。それがたくさんの人に『すごい』と認められたから、『おとぎ話』として現在まで伝わっているのよ。だから太郎も毎日、色々なことを頑張りなさい。太郎が元気いっぱい、自分のことを全力でやってくれればお母さんはそれだけで幸せだわ」
そう言われた太郎くんは、嬉しくなってお母さんに抱きつきました。
「『子どもは風の子』って言うでしょ? 太郎もお姉ちゃんと仲直りして、お外でめいっぱい遊んできなさい」
「うん、わかった!」
太郎くんはお母さんに言われた通り、お姉ちゃんのところに向かって勢いよく走り出しました。
◇
太郎くんは元気に、庭を駆け回ります。
「子どもは風の子、太郎も風の子!」
「太郎はお父さんとお母さんの子どもよ」
お姉ちゃんは太郎くんを追いかけながら楽しそうに、笑ってそう言いました。