屋根裏部屋のプロポーズ
コン、ココンと。癖のあるノックの音が響く。
「お嬢様、俺です」
「お入りなさい」
ドアが開き、ふわりと部屋の空気が流れる。
「私の前に来て」
「はい」
「膝をついて」
「は、はい」
声がする方に向かって手を伸ばす。
硬い皮膚の感触。これは顎。頬と耳を辿って髪を触ると、ぴょんと跳ねていた。
「また髪が乱れているわ。ちゃんと鏡で確認しなさいといつも言っているでしょう」
「はあい、お嬢様」
それから彼の胸元を触る。タイはちゃんとまっすぐだ。
彼からは夏の夜の匂い、それと炙ったお肉や焦がした砂糖の香りが漂ってくる。
「今日は夏祭りの日だったわね」
「はい! だから俺、お嬢様を誘いにきました」
「……私は行かないわよ。つまらないし、迷惑になるもの。君は行ってきなさいな。帰ったら、どんな風だったか聞かせてちょうだい」
「俺、お嬢様が困らないようちゃんとエスコートします。外は涼しくて気持ちいいですし、屋台で売ってる串焼きも飴がけもきっと美味しいですよ」
「ごめんなさいね」
私がそう答えると、彼は「そうですか……」としぼんだ声を発した。
表情はわからないけれど、雨に濡れた犬みたいな顔をしていそう。
「じゃあお嬢様、屋根裏部屋に行きませんか?」
「屋根裏? まあ、それならいいけれど」
屋根裏は危ないから入ったことがない。
彼の手を借りて階段を登り、屋根裏部屋へと足を踏み入れる。
「お嬢様、そこから2歩前へ。手を伸ばしてください」
「これは木箱ね」
「はい。そこに座ってください」
「よいしょ。……ここは案外涼しいのね。窓が開いているのかしら」
「そうです」
「ねえお嬢様、いま俺たちの斜め上に窓があるんです。指をさしてみてください」
「なあに、何の遊び?」
私は言われるがまま、斜め上を指さした。
「お嬢様が指をさしている先に、星があります。王冠座です」
「まあ」
この国では夏祭りの日に王冠座へ愛を誓うと、神が祝福してくれるという言い伝えがある。
ふと彼が何も話さないでいることに気づいた。
いつもは止めるまで喋り続けるのに、どうしたのかしら。
不思議に思っていると、彼は意を決したような声色で話し始める。
「お嬢様。俺はお嬢様が好きです。今はまだ未熟ですが必ずお嬢様にふさわしい人物になります。だからお嬢様、どうか俺と結婚してください」




