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#5 part4

「えー、ここでですね。何と新コーナーを始めようと思います! 題して、その名も『黒鵜座一先生のお悩み相談室』! これはスタッフの皆さんが考案してくださった企画なわけですけども。正直なところもっと早く出せやって感じですね。おっと失礼。えーこれはですね、普段皆さんのお便りを読んでお悩みに対する打開策を出させていただいているわけですが、プロ野球選手にだって悩みの一つや二つあります。今回の企画ではそれを解決していこうというわけですね。それで記念すべき第一回ですが―――」


「ん? 俺をじっと見てどうしたんだい? ふふっ、ひょっとして顔に蝶でも付いているのかな?」


「付いてるわけねぇだろ……やっべぇ、いきなり悩みとか無さそうな人が来ちゃったよ」


 黒鵜座が肩を落とす。新企画、即座に頓挫の予感―――。


「おいおい失礼だな。俺だって人間だからね、そりゃあ悩むことだってあるさ」


「うっそだぁ。打ちこまれても平然としてるくせに。あ、女性関連の話とか無理ですよ、僕全く経験がないので」


「嘘じゃない。本当のことだよ。挙げるとすればそうだな……夫婦喧嘩をした時かな」


「やっぱ惚気話じゃねぇか! ぶちころがすぞこの野郎!!」


「随分物騒だね」


「うぜぇ……、何か余裕ありそうなところとか特にうぜぇ……」


 変わらず微笑みを浮かべる八家とは対照的に、黒鵜座はものすごくイライラしていた。なぜなら黒鵜座に相手がいないからである。この人ポジティブお化けだから何言っても通用しないんだよな……。仕方ない、番組の為にも協力してやるか。


「まぁ良く分からないですけど? 協力ぐらいしてあげようじゃないですか。でないと話も進まないし。じゃあ僕奥さんの役やりますんで、喧嘩した事前提で行きましょうか」


「何だかコントのようになってきたね」


「……ちょっと僕も同じこと考えてましたけど、そういうのは言わないのがお約束ですよ」


 その指摘通りではある。いや確かにコントっぽくはあるけれど、こういうのは仮定して実践するのが一番経験になるだろうから。知らんけど。


「えー、じゃあ行きますよ。んっんん。『亘君の事なんか……』」


「待つんだ、ストップ」


「止めるのが早すぎませんか!?」


「彼女は俺の事を『あっくん』、そう囁くように呼ぶんだ。リアリティを追求するならそこら辺しっかりしてくれよ」


「何だろう、キレていいですか? あーもー、わがままですね。今度こそ行きますよ? 『あっくん(ウィスパーボイス)の事なんてもう知らないんだから(裏声)!」


「Yo! 許してくれよmy honey! やりたい事は二人の自由! 深めていこう交友! 今君に伝えたいI love you!」


「では採点に入ろうと思います」


「早くないかい」


「先に聞いておきましょう。逆に何点だと思います?」


「うーん、低く見積もって80点くらいかな」


「では発表します。ドゥルルル……チーン! 0点に決まってんだろ馬鹿野郎」


「ふふっ、そう来たか」


 黒鵜座にはツッコミたいところが山ほどある。まずそのへったくそなラップをどうにかしろだとか、そもそも仲直りしようとするときにラップを使うなとか、そのウザいキメ顔をやめろとか本当に色々あるけれど。一言でシンプルに言い表すとこうだ。どうかしてるよ、アンタ。


「おかしいな……この前はこれで許してもらったんだけど」


「それはよっぽど奥さんが優しいかやけにぶっ飛んだバカップルかのどっちかですよ」


「おい今うちの姫君の事馬鹿って言ったか」


「愛に目覚めたサイコパスか! そこ引っかかるところじゃねえから!」


「まぁ採点の理由を聞こう。俺からするとこれで誠意を伝えたつもりなんだが……」


「ど・こ・がぁ!? 今のじゃ相手の神経逆撫でするだけなんですけど! あー、もうしょうがないですね。僕がちゃんとした謝罪の仕方を教えてあげますよ」


「ほう、参考にさせてもらおうじゃないか」


 はい、じゃあまずそこに正座しろと黒鵜座が指示を出す。大人しく従う八家に対して、黒鵜座は顎に手をつけて考えを巡らせる。


「まずは首を深々と垂れます」


「うん」


「Repeat after me! 『この度は申し訳ありませんでした』!」


「『この度は申し訳ありませんでした』!」


「へへっ、年上の先輩を土下座させるのは良い気分だぜ。まぁあくまでもこれはシミュレーションだけど」


「……おい、何やってんだこりゃ」


 タイミング悪く現れたのは、ブルーバーズの投手コーチを務める仲次敏治である。彼から見れば後輩の黒鵜座が先輩の八家に土下座をさせている構図である。そりゃあ首の一つや二つも傾げるというものだ。


「あっ、仲次コーチ! いや、その、この状況は違うんです! いや傍から見ればそう見えるかもしれないですけど!」


「うるせーよ」


「あぶっ」


 わたわたと弁解しようとする黒鵜座の額を仲次が軽くチョップする。黒鵜座から短い悲鳴が漏れた。


「それよりもお前ら北を見なかったか? あいつにそろそろ準備をしてもらわないといけないんだが……」


「ああ、北君ですか。それでしたらさっきまるで子供のようにお手洗いに向かっていったのを見ましたよ」


「だったらしゃーねーか。あ、お前ら。何やるかは自由だけど、あくまでも常識の範囲内でやれよ。問題行動が拡散されても遅いからな」


「(JCは最高だよ―――)」


 黒鵜座の頭に先ほどの八家の発言がフラッシュバックする。仲次コーチ、実はもうそれ遅いかもしれないっす。なんて口が裂けても言えるわけがない。そのまま去っていく仲次の後ろ姿を見送りながら、黒鵜座は一息ついた。


「はぁ……ヒヤッとした。まぁそんなわけです。奥さんを怒らせた場合はこのようにして謝罪してください」


「こんなものでいいのかい? もっと花束を差し出すかのように優美な方が……」


「まぁそれもありかもしれませんが……いいですか八家さん! 世の中誠意が大事なんです。そして誠意とはつまり、感情ではなく行動なんですよ! 頭の中ではどれだけ『クソ野郎』と思っていても、しっかり態度で示しさえすれば問題ないんです。これから奥さんを怒らせた時は、しっかり頭を下げて誠意を見せるようにしましょう! はい、これでお悩み相談終わり! 終わりでいいですよねスタッフの皆さん!」


 そんな事を話している内に、八家のスマホから通知音が鳴る。本来投げる可能性のある投手はブルペンにスマホの持ち込みを禁止されているが、八家は投げる予定が無いので例外である。そのスマホの画面には―――。


『今日の放送について、帰ったらお話があります』


「……ははっ、早速使う機会が出来ましたね」


「えーっと、もう一度謝罪の仕方を一から教えてくれないかい?」


「仕方ないですねぇ。ここで一旦コマーシャル入りまーす」



みんなも謝罪の仕方には気を付けよう!

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