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#3 part1

第三回、いきなり波乱の予感……!?

「あぁん? やるかコラ!?」


「お、手ぇ出しちゃうわけ? いいの、野球選手がそんなことしちゃって。そんならこっちも反撃してもいいわけだよなぁ!?」


 放送開始直後。いきなりブルペンは険悪なムードに包まれていた。ガンを飛ばす二人の間には火花が散り、スタッフもハラハラさせられる。ともあれ黒鵜座は本題を忘れてはいなかった。


「……まぁ一旦この馬鹿は置いときましょう」


「誰が馬鹿だコラァ!」


「そうやっていちいち乗っかってくる所がだよ。はい、えーブルペン放送局第三回の始まりでございます。司会はいつも通り僕、黒鵜座一です。そして今回のゲストですが……めんどい。自分で自己紹介しろ」


「はぁ!? それがゲストに対する態度かテメェ!」


「いいだろ同期なんだし。ほら早いとこ言っちゃえよ」


「……チッ、仕方ねーな。熱き闘志を胸に戦う投手、熱田炎也(あつたえんや)です。この番組を視聴している方々、覚えて帰ってください! 熱田炎也です」


「何で二回言ったんだよ、選挙の演説じゃねーんだから。っていうかいつツッコもうか考えてたけど何その恰好。あ、ラジオをお聞きの皆さんにも分かりやすいよう言わなきゃですね。何かめちゃくちゃ変なハチマキつけてます」


 黒鵜座の言う通り、熱田の頭には「金子監督♡先発志望です」と書かれたハチマキが巻かれている。やはり自分の思った通り、こいつ馬鹿だと黒鵜座は確信した。


「あ? これ? 監督へのアピールだよ。見て分かんねーのか?」


「見たら余計意味分かんねーから言ってんだよアホ」


「アホって言うんじゃねぇ! つーかこれ作るのに三時間かけた俺の努力を笑う事自体許せねぇ!」


「もう喋んなお前。話せば話すほど墓穴が増えていくだけだぞ」


「あぁ!? んな事言ってたら喋りたくなるだろうが! あーもういい、登板するまで喋り倒して今回の放送で俺の名前を全国に轟かせてやるよ!」


 それは前回のゲストの芝崎以上。本物の馬鹿だコイツ。黒鵜座は呆れて声すら出ない、と本来ならそうなる所だが今は番組中だ。喋らなければ意味がない。というかコイツに話させるのは危険だ。何かの拍子にうっかり秘匿事項を話してしまいそうな……、いやコイツにそもそもそんな情報が行くわけないか。だって馬鹿だし。


「盛り上がっているとこ悪いけどこれローカルでの放送だから。よほどの物好きじゃない限りこの番組を見る人はほとんどが地元の人だぞ」


「何ィ―――ッ!? そういう事は早く言えこの野郎!」


「いや先に言ったはずなんだけど。……もういいや、こんな奴放っておいてはがきを読んでいきましょう。ペンネーム『ヘヴィメタヘッド』さんからですね。『黒鵜座選手と熱田選手の仲はものすごく悪いとどこかの噂で聞いたのですが本当でしょうか』、はい熱田何かコメントしろ」


「仲が良いわけねぇだろ、こんな理詰めの奴と。大体よぉ、俺は本能で投げるタイプの投手だ。そもそもの相性が既に悪いんだよ」


「珍しく同感だな。さっきのやりとりを見てもらえば分かる通り、僕がお前の事を好きなわけがない。お前みたいな球速以外は前時代的な投手なんて首脳陣としても計算しづらいだろうよ」


「テメェのピッチングもそう変わんねぇじゃねえか!」


「は~? 一緒にしないでもらえますかね~? こちとら生き残るためにデータを駆使して戦ってるんですー! 球が速ければいいだけの時代はもうとっくに終わりを告げてんだよ」


 これを見ている視聴者の方々、安心してほしい。彼らにとってはこれが通常運転なのである。むしろ無言ですれ違うほうが異常と思われるレベルなのだ!


「んだとコラァ……もっぺん言ってみろアホ、バーカ!」


「語彙力小学生じゃねぇか……。というか僕とコイツを突き合わせる時点でもうヤバいですよ。そうなった日にはもう天は裂け、地は割れ、海が荒れて、終いには火山が噴火するように投手が炎上してブルペンが総動員されますからね。何故かって? 知らんがな」


 黒鵜座が両手を広げ、まるでお手上げのようなポーズを見せる。オカルトっぽいかもしれないが、これが実は本当の話なのだ。互いの喧嘩が長ければ長い程何故か投手が炎上する。救いなのは二人がブルペンで顔を合わせる機会がそう無い事だろうか。ともあれ、知らないものは本当に知らないんだから仕方がない。


「あ、続きありますね。『もしそうであれば、どうしてお互いが嫌いなのか教えてください』、ですって。ファンに心配されるようじゃいよいよマズいですよ僕ら。じゃあ仲良くするかと言われればまぁしないんですけど。僕が彼を嫌う理由はですね、子供っぽいんですよ。言う事も本当に中学生のまま精神年齢止まってんのかってくらいアホだし。マジでコイツの方が上位指名なのが腹が立ちますね。まぁその分? 僕は泥をすする思いでここまで成長したわけですけども」


「子供っぽいという所が納得いかねぇ……」


「事実じゃん。で、お前から聞いてないんだけど。何で僕の事が嫌いなのか教えてくれる?」


「まぁ何が嫌いかと言われれば全部と答えるが、特にそういう所だよ。妙に大人ぶって理屈っぽい事ばかり言いやがる。確かにお前の方がプロとしていい成績残してんのは百歩譲って認めてやるがな、同級生なのに妙に上から目線なのがムカつくんだよ! 今に見てろよ。こっからだ! こっからお前をぶち抜いて活躍してやる! もちろん先発としてな!」


「はぁーん? んな事言ったって僕らもういい大人なんだから理屈っぽくなるのは当たり前でしょうが。逆に未だに子供なのはお前くらいのもんだよ。あーあ、どうせ同期とやるなら野手だけど美濃さんと組みたかったなぁ、あの人性格いいし、お前と違って。お前と、違って」


「あぁ?」


 黒鵜座と熱田の睨み合いはおでこがぶつかり合いそうなほどに近づいている。これがバラエティ番組じゃなくて良かったな二人とも。もしそうなら仲直りのキスをさせられる所だったぞ。少しして、黒鵜座がため息を吐く。


「……どうやら僕らは性格まで相成れないようだな」


「ハッ! 今に始まった問題じゃねぇだろうがよぉ。俺とお前は言わば真逆の存在だ。感覚派と理論派、この際どっちのが正解なのかはっきりさせようじゃねーか!」


「はっきりさせるって、どうやってだよ」


「どうやって? そりゃあ……理論派の出番だろうが! お前が考えろ!」


「お前そこ丸投げすんの!? うーわ馬鹿だ。馬鹿が出たわ。ちょっとこっち寄らないでもらえます? 馬鹿が移りかねないので。まぁそこは後で考えるとして、一旦CMに入ります。それでは皆さん、チャンネルはそのまま!」

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