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【強欲/7】反芻する思考

 王都は異常なし、と報告を受けた。

 代表はエンマにしていたはずだが、なぜかホアンが報告に来たのには、大した意味はないだろう。

 そもそも彼らをチームとして王都側に送り込んだのはアリアだ。エンマとジョゼだけでも何も問題など起きるはずもないとは思っているが、それでも万一を考え、過剰戦力になるようにホアンとローズまで配置したのだ。それこそかの勇士ご一行でも乗り込んで来ない限りは、問題になろうはずもない……少なくともアリアはそう思っている。


 むしろ問題があってもらっては困るというものだ。


 それにしても、と何度も何度も反芻した思考を再開する。

……結局のところ、襲撃犯の目的は何だったのだろう。

 何人もの人間を――連中の全員が人間だったかどうかは知らないが――殺すほどの目的を、考えれば考えるほどに理解できない。

 複数の命を絶つのであれば、何かの目的のために、というのでなければ、釣り合うまい。


 それが釣り合うべき事項とは一体何だ。


 そこまでして叶えたいものとは一体何だ。金、名誉、地位、……いや、その程度の欲求でそこまではしないと思いたい。それでも可能性を捨て切れないのはヒトの怖いところだが、それでも、できればそんな馬鹿な願いではないと思いたいところだ。


 エンマの前に受けたダーシェからの報告も、特に変わった話は聞いていない。

 ルディーリアの監視を続けているジョゼからの報告はまだ受けていないが、……とりあえず一度そちらの情報を催促してみるべきか。

 それに、一番報告の欲しい事柄を聞いていない。レミィはもちろんすでにルディーリアへ辿り着いただろうが、その後町にずっといるのだろうか。まぁ町に入る際に変装などをしている可能性もあるから、もし町に入ったとして、ジョゼがそれに気付いたのかどうかは定かではないが。


……何かを忘れていて、何か思い違いをしている。


 その自覚はあるのだが、……どうにもそれが何だったのか、思い出すことができない。

 何度も繰り返したこの思考に、アリアは何度となく違和感を覚えているが、……


「――ふん、馬鹿か私は」


 思わず口元を僅かに歪め、自らを嘲笑する。

 何度も繰り返す思考になど意味はない。……ループし始めた思考は、どうせ考えたところで時間を無駄にするだけなのだ。ならば別のところに思考を割いた方が、有意義に、効率的に物事を進められるだろう。



 その後やってきたジョゼからも、言葉少なく異常なしとの報告を受けた。アリアが呼び出すまでもなく、いつになっても催促がないので自分から報告に来てくれたのだという。もちろん監視には代理を立てており、その辺は抜かりないとのことだ。

 ルディーリアの町へ入った者はいない。とすれば、アリアの予想通り、レミィは変装し、ジョゼにすら気付かれずに町に入ったのだろう。レミィが自らの行動を偽るはずがないので、ある意味予想通りだ。


 何度か思考は同じループに陥ったものの、少なくとも前ほどに同じ思考を繰り返さないよう、受けた報告で回る思考を紙に取り留めなく書き連ねる。

 侍女もその行動には慣れたもので、思考に暮れるアリアの背後にこっそりと何枚かの紙を用意しており、「紙を」という一言を発した時には、うち一枚を手に持って待機していたほどだ。

 アリアは深く思考すると周囲を見ない癖があることも熟知しており、そういった場合にはアリア自身の警戒が薄くなる――肉体的な危機への意味も含め――ことも当然理解している。

 侍女はその場に張り付き、もう一人の侍女へハンドサインで指示を出すほどの徹底ぶりでそれをサポートするのだが、当然、侍女に出来るのは周囲への警戒だけだ。

……などと言いつつ、アリアが腹を空かせる頃に食事を用意させたり、思考力が薄くなった頃合いを見てお湯を勧めたり、思考力が持続している時にはさりげなく紅茶(ヴェルア)を差し出したりと、見る人が見れば戦慄しそうなレベルでの徹底されたサポートを受けつつも、アリア自身は思考を回し続ける。



「根を詰めすぎです」

「――そう、見えるか」


 侍女の言葉に、一瞬沈黙した後呟くと、侍女はアリアの手に自らの手を重ね、「はい」と呟いた。

 本来であれば不敬であると斬られかねない馴れ馴れしいい態度だが、そう振る舞えと命じたのは他ならぬアリア自身だ。

 アリアはその侍女の振る舞いに対し、「ふむ」とたった一言漏らしたのみで、考えるように紅茶(ヴェルア)をひと口。


「……そうか。そうだな。ありがとう」

「いいえ。光栄です」


 アリア自身、ループする思考に囚われていた自覚はある。思い出せないことを思い出そうと、思い違いしていることを是正しようと、気付けば同じことを何度も考えるという、無駄なことをし続けていた。


 何度も繰り返す思考になど意味はない。


 そう何度も思いながらも、何故か思考はそこに行き付き、気付けば同じことを考えている自分がいるのは確かだ。

 必然、そうであればその同じ思考をやめるべきであるはずなのに、同じ思考は何度も何度も、まるで呪いのように、アリアが別の思考を持ってはいけないかのようにじわじわと思考をそこに戻そうとしてくるのだ。


「それから、……大変申し上げにくいのですが」

「何だ?」

「臭いです」

「……ふむ?」

「いえ、ふむ?ではありません。とても臭いです」


 二度も断言されてしまっては、苦笑で誤魔化すことも出来はしないだろうが、それでもアリアは苦笑を漏らす。

 確かに、もう何週間も湯を浴びていない気がする。一応体は濡らした布で何度か擦りはしたものの、考えに没頭するあまり、それすら少し疎かにしていたかもしれない。

 それなりに香水なども付けていたが、それでも誤魔化せないほどに臭かったのだろう。

 そうした背景があるとはいえ、侍女が貴族に対して、臆面もなく「とても臭い」とは。まぁそう躾けたのはアリアだからそれでいいのだが、ちゃんとアリア以外には相応に接することができるのか……いや、大丈夫か。この侍女ならば。


「わかったよ。湯を頼む」

「湯場の準備はとうに済ませてあります」

「済まないな、さて」


 アリアは言うと、カップの紅茶(ヴェルア)を呷る。

 健康のため、湯を浴びるのに水分は必須だ。本当は水の方がいいだろうが、まぁこれも水分には違いないので問題ないだろう。


「あまりに長いようなら教えてくれ。また考え込むかもしれん」

「心得ております」


 まぁ、心得てはいるだろうな、とアリアは思う。

 ここ数週間もの間、必要最低限の書類に判を押したり署名(サイン)をしたり、誰かの報告を受けたりといったことはしていたものの、その他のほとんど全ての時間、アリアは今回の騒動について考えていた。

 周りは見ているつもりではあるが、同じ思考を「ここ数週間もの間」、ずっと繰り返していたのだ。

 それを見ている侍女がそれを心得ていないはずもない。

 そこまで考え続けてもなお、答えの出ないこの気持ち悪さは何だと言うのだ。何を忘れている。何を思い違いをしている。


――あぁ、やめだやめだ。


 気付けば、アリアはいつの間にか服を脱ぎ、すでに湯に浸かって天井を見上げていた。

 いや、少し思考を戻せばそれを侍女に補佐してもらいつつ自分でやった記憶はあるが、この取り留めのない思考に流されてもいたことを自覚する。


 本当に、一体どうしたというのだろう。


 アリアの頭の中は、気付けばそれぞれの大罪騎士が何をしているか、今回の事件にどう関わっているのか、そんなことばかりを考えている。

 確かに事件はあった。しかし、ルディーリアの独立は、事実上すでに成し遂げられており、もう数週間もの日が経っている。

 問題など今のところ何も起きていないし、それこそアリアがそこまでこの事柄に気を回す必要などない。

 全て順調だというのに、何故このことがこれほどまでに思考をかき回すのか、アリア自身理解ができない。


 何かを忘れていて、何か思い違いをしている。


 あぁくそ、まただ、とアリアはばしゃりとお湯を顔に叩き付ける。脈絡もなく思考の繋がりもなく筋道もなく、気付けばこの思考に戻ってしまうのだ。一体何を忘れて何を思い違いを……


「――しつこいな、さすがに私も」


 一度考えるのをやめると、そう決めたばかりだ。

 放棄した思考を何度繰り返すのか。

 意識して、思考を空っぽにする。気付けば戻っている思考を何度も何度も空っぽにしながら、アリアは何度も何度も顔を湯に叩き付け、最終的に侍女が呼びに来るまでの長い時間を、湯に浸かり続けた。

あらすじ欄にも書きましたが、プロットを入れたUSB破損のためプロット練り直し(再構築)中です。

この後書きを書き直していないということは、まだ再構築が済んでいないということです。

大変申し訳ありませんが、再構築が完了するまでこの続きは更新されません。

もちろん再構築が完了し、次の話を書いたら即掲載しますが、元々かなりの時間をかけて作成したプロットだったため、再構築に時間がかかることが想像されます。

大変恐縮ですが、お待ち頂けたら幸いです。よろしくお願いします。

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