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【怠惰/5】面倒の兆し

 無駄にエンマを巻き込んだアリアに面倒臭い苦言を呈するという、とてもとても面倒臭い作業を終えてから、ようやくの現状報告をアリアから聞くこととなった。

 全員を招集したその理由は、


「ルディーリアが、反乱を起こした」


 各々が各々の反応を示した。そのほとんどが驚愕の表情だったが、ダーシェ――憤怒を冠する騎士で、この場に勢揃いしている大罪騎士のひとり――だけが無表情を維持している……いや、少し眉を顰めているというところか。わかりにくいが、少しいつもより険しい表情に見える。

 面倒臭いことになったなぁとその様子を眺めていると、レーン――色欲を冠する騎士だ――が「今、何と」と口にするのを聞いて、面倒臭くもアリアの口から寸分違わず同じトーンで同じ言葉を聞く羽目になってしまった。


 聞いているだけでも面倒なことになったなぁと少しだけ思っているうちに、話はいつの間にか希望的観測を含めた質疑応答と化しているが、それすら聞くのも面倒臭い。

 面倒ながらも耳に入って来る話し合いを整理していると、そのほとんどが、反乱を鎮圧するのか制圧するのか、という二択のどちらにするかという話にすり替わってしまっていることに、……誰も、気付いていない。


 ルディーリアと言えば、かつてツキメさんが仲間と共に登ったという、天高く聳える塔のダンジョンがある町だったか。聞いたのはかなり昔の話で、話したツキメさん自身も昔語りだったからほとんどが(うろ)覚えだが、そのダンジョンに挑戦しようと、力のある冒険者たちが何度も塔に挑戦し、時に力を付け、時に傷付き、……時に命を落としたというが、それでも挑戦し、生き残っている冒険者たちだ。さぞや歴戦の戦士揃いだろう。

 それだけの戦力を備えた町だ。万が一にも鎮圧などという話になった場合、お互い無血での決着などということにはならないだろう。


「……騎士長、状況を詳しく把握したいのだけど」


 ふと、そもそもの始まりを、まだ聞いていないことに気付いたので、面倒を減らすために口にしてみると、アリアはようやく、その【反乱】の始まりとなった書状を――渋々と言った面持ちで――差し出した。最初から用意していたのだろうに出さないとは面倒臭い性格をしている。また何か面倒臭いことを考えているのではないだろうかと思った上でアリアの表情を見ると、……やっぱり何か考えているようで、一瞬意地悪く笑ったように見えた。……気のせいか、笑みに見えたそれは、どう見ても無表情だ。どっちでもいいか面倒臭い。


『我らルディーリアはカステュール王家を信じない。

 カステュールの支配を脱し、独立をここに宣言する。

 独立の阻止に対しては、ルディーリアの全てをもって抵抗する。

――願わくば、我らに平穏を』


「……反乱には、見えないんだが」


 ダーシェが言う通り、どう見てもこれは平穏を願う、ルディーリアから王家への嘆願書であり、独立宣言だ。

……さすがにこれを反乱と断ずるのは無理があるのではないだろうか、……と少しだけ面倒ながらも頭を回す。


「ダーシェ、王家の判断だ。たとえそう見えなくてもな」


 名指ししておきながらも、レーンの声はこちらへの釘刺しのように聞こえた。

 ならば前提条件として、面倒だけど王家側からその文章を見てみることにしよう、と文面を考える。


『カステュール王家を信じない』

 不敬だ。現時点ではまだ独立を果たしていないルディーリアは、この時点ですでに王家へ喧嘩を売っているように見える。


『カステュールの支配を脱し』

 不敬だ。王家の文字すら消え、呼び捨てることで王家を軽んじた発言のように見える。


『独立の阻止に対しては、ルディーリアの全てをもって抵抗する』

 不敬だ。すでに独立が決定したかのような言い草をするほどルディーリアはすでに地位を得ているのか。


 最後の1文で、それを帳消しに出来ると思って馬鹿にしているかのようだ。


――確かに、私が王家であれば、面倒臭い喧嘩を売られていると思っても仕方がないか。

 ただし、王家は私ではないし、私もまた王家ではない。

 実際には王家がどう考えているのだろうか……いや、反乱という言葉を使っている時点で、似たようなことを考えているのだろうか。


 だが、その反面、王家がこれを反乱としたことと、アリアがこの書状を見せずにはっきりと反乱扱いしたことは、意図が異なる気がする。面倒臭いけど一応こっちも考えるか。


 多分、ではあるのだが、王家は独立……もといこの【反乱】には、特に反対はしていないのではないだろうか。むしろ、書状を隠して話をしようとするアリアの方が、今考えたように不敬だと腹を立てていて、独立を容認できない立場なのではないだろうか。

 王家から見たら、ルディーリアは統治している上で金銭的にそれほど旨味のある都市ではない、むしろ大赤字――ざっと数秒で計算した限りではあるが、統治するに当たって、あの町の冒険者率の高さを考えれば、きっとそれほど間違ってはいないはずだ――だろうし、独立して生計を自らやってくれると言うのなら、王家側は喜んでルディーリアを手放すに違いないと思うのは、さすがに穿ちすぎか。


 何故書状を見せずに話を進めようと思ったのか。


 ある程度考えを纏めつつ、あれやこれやと方向性を纏めている他の面々の会話を聞き流しつつ、あぁ面倒だなぁと内心で愚痴を吐きながら、さてどう問い詰めてやれば一番楽だろうか、と考える私は、本当に面倒臭がりになってしまったものだ。




「書状の話を後回しにしたのは何故?」

 人が捌けてから、淹れ直してもらった紅茶のカップを両手に持ったまま、アリアに問う。

 まだエンマが残っているが、エンマは私と一緒に退席するだろうし、そもそもエンマに聞かれて困ることはないだろうと判断する。タイミングは今しかない。


「……聞かれなかった、と言うのが答えです」

「それで鎮圧の方向で話が進んだとしても?」


 少しだけ間を開けてから、それでも予想の範囲を出ることもなく、しれっとアリアが返答するので、用意しておいた質問を続けると、アリアもまた、その質問を予想していたかのように「それでもです」と、今度は即座に返答を返した。

 その答えの意味はわかっているのか、と喉元まで出かかったが、答えのわかり切っている質問など面倒臭いだけなので、紅茶と一緒に飲み込んだ。

 そう。わかっているのだ、この女は。

 それが、……あぁもう面倒臭い。いっそ確認のために言ってしまえばいいか。


「それが王族の心に背いているとしても?」

「はい。それでもです」


 またしても即答。まぁ、いちど即答したことを考えれば、まぁ予想された答えだ。二度目となればそう答えることに迷いはしまい。

 きっと王族の方々は、争いなどという面倒ごとを選ぶことはしない。あの書状は確かに不敬ではあるが、独立することを決めた者たちが、わざわざ王族に敬意を払うことなどすまい。そのくらいのことでいちいち目角(めくじら)を立てたりはしない。

 どのみち、さっきの話し合いの中での決定事項を考えれば、私が少し面倒を嫌がらなければ、アリアの思うようなことには決してならないだろう、と考えて、紅茶を飲み干しながら、次の質問をするべきか否か。いや、少し冷静になってみれば、こんな面倒臭いやり取りは不毛だろうと思い直し、「そう」とだけ口にして、いい加減この面倒臭い女から離れてしまおうと考えた。



 決定事項は、私が反乱を制圧――と言う名の独立の条件交渉――すること。


 これ以上面倒なことにはならないはずだ。

 私はただ、独立を容認し、いくつかの最低限の条件を達成すればいいだけなのだから。

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