悲しみの海−5
模型飛行機を操縦する少女の姿を見たとき、サギソウの花が思い浮かんだ。その少女と名字が、サギソウだと知って、その不思議に改めて驚く幸樹だった。
「報道で知ったんだよ」
「そうなの」
悲しそうに言った。
「そうだ、僕は君と君の両親を忘れないために、この場所を、鷺草の磯、鷺草の海と呼びたいと思ったけど、どうかな?」
「きっと、お父さんやお母さんは喜んでいます。私もよ」
言って少女は、急に驚いたように言った。
「お兄さんは、展望台で私を助け起こしてくれた人でしょう」
「覚えていたんですか」
「はい」
少女は、先ほどから幸樹を見てどこで逢ったのか思いだそうとしていたのだ。それが今、思いだしたのだ。
「僕は最初から知っていたよ」
「どうして?」
「仲の良い親子を見て、僕は羨ましく思っていたんでね」
急に少女が泣き出した。
「辛いことを思い出させてごめんね」
「いいの、もう、泣かないわ」
幸樹は、少女を自分の子供にしたいと思って言った。
「ねえ、僕の子供にならないか」
少女は激しく首を振った。
「なぜ?」
幸樹は失望を隠せないで尋ねた。
「身体の不自由なおばあちゃんがいるんです」
「そうか、僕の提案を受け入れてくれたのは、おばあちゃんを思いだしたんだね」
「ええ、おばあちゃんが心配するから、私、帰るわ」
少女は、急に祖母のことが心配になったようだ。
「それがいい」
二人の濡れた衣服は、何時の間にか乾いていた。
少女と幸樹は、鷺草の磯の上に立ち、少女の亡き両親の冥福を祈っていたが、悲しみに耐えられなくなった少女は肩を振わせ泣いた。
やがて、少女は悲しみを振り切るように、砂浜を歩きだした。
「君は此処へ、よく、一人で来られたね」
幸樹が話掛けた。
「三日前、親戚の人達と一緒にきたのよ」