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私の瞳に大切な人がいますー鷺草の海3

 支度が終わると、幸樹は、急いで、JR和泉砂川駅に行き、和歌山経由新宮行くの電車に乗った。

 十日前、時間は違えど、幸樹は和泉舞を伴い、新宮行きの電車に乗った、あの日のことが切なく蘇り、知らず知らずに涙が出ていた。

 滅入る気分を晴らそうと、外の景色を見るが、漆黒の暗闇で何も見えない。

 だが、ガラス窓には、悲しそうな男の顔が映っていた。

(泣くな、泣く前に、鷺草の少女が泣きながら電車を乗り継ぎ、鷺草の海へ辿り着いた悲しみを考えろ。お前の辛さなど物の数でもない)

 ともすれば、弱気になるわが心を叱咤する幸樹。

 しかし、和泉舞のぎこちない姿が目に浮かぶと、可哀相でならなくなり、帰りたくなる幸樹だった。

 そして、和泉舞の手足となり、幸せを絶対に守ると誓ったことを思い出す。

 同時に、一緒に死んであげると言った時の嬉しげな鷺草の少女を思い出す。

「可哀相な二人」

 二人とも幸せにする方法を見付けられない今の幸樹には、ただ、可哀相としか呟くしかないのだ。

 やがて、鷺草の海へ通じる駅に着いた。

 時刻を見ると午後、十一時を過ぎていた。

 駅を出た幸樹は、宿泊の予定をしていた駅近くの民宿へ行き、寝床に入ったが、どうしても眠れず、午後三時前に起床し、民宿を出た。

 外は暗闇、幸樹は、僅かな星明かりをたよりに、覚えておいた道を手すがり状態で前に進んでいると、ふと、和泉舞のことを思いだす。

(目が見えないことの苦労が分かった。もし、生きていたら、舞さんの目を治し、一生幸せにしてあげる)

 やがて、松林に到着し中へ入った。中は漆黒の暗闇、進む向こうから微かな光が見える。どうやら、漁船が点す光のようだ。

 その光を目標にして進むと、浜辺に出た。この暗闇でも、白い砂浜は小さな星の光に反射し、海と砂浜を識別させてくれた。

 幸樹は浜辺を歩いて、鷺草の磯に向った。

 鷺草の磯に着くなり、幸樹は叫んだ。

「鷺草の少女に逢いたい!」

 しかし、穏やかな海は何も答えてくれなかた。

 幸樹は、鷺草の少女に逢った時のように、松の木陰の青草の上に寝転び、空を見上げると、間もなく東の山から朝日が昇るのか、真上に浮かぶ雲の東側が金色に輝いていた。

 幸樹は、鷺草の少女に逢えるよう、白くて小さな雲を探したが無かった。

「白い雲が無いのは、鷺草の少女に逢えないという報せなのか」

 呟いた幸樹の心に切ない風が吹き抜ける。

 幸樹の脳裏に、十年前の光景が目に浮かぶ。

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