悲しみの海−3
「私は、父さんや母さんが居ない世界で生きるのは嫌。せっかく、助けてくれても、お礼も言わないし、恨むわ」
震えるながら恨みをいう少女が、この上もなく哀れで、思わず、抱き締めてやりたいと思ったが、少女の望みを叶えさす訳にはいかない。
「僕は、どんなことをしてでも、君を絶対に死なないからね」
幸樹が大切な宝物に触れるように少女の手を掴む。
少女は涙の目で幸樹に言った。
「絶対に死ぬわ」
言うと、少女は、幸樹の手を振りほどき、海に飛び込もうとした。
そうはさせじと幸樹は追い掛け、少女の手を取ると、昂った少女の心を沈めるように静かに尋ねた。
「君にはお祖父さんさんやお祖母さんがいないのか?」
「おばあちゃんが居るわ」
応えら少女の顔色が変わった。
「もし、君が死んでいたら、おばあちゃんは、今の君と同じ悲しみを受けるんだよ。いや君のお父さんやお母さんが死んで悲しい思いをしているのに、君まで死んだら、おばあちゃんは、悲しみのあまり死んでしまうよ。まして、愛する両親の死により、残った者の辛さを一番良く知っている君が死にたいと言う、僕は悲しくてならないよ」
「でも、私は悲しくて生きていられないわ」
和泉葛城山の展望台で、「大好き」と言うほど大好きな両親が死んだのだ。
生きているのが嫌になると言う気持ちは痛いほど分かる。
少女の悲しみを考えると、月並みな言葉では少女の自殺を防げないと考えた幸樹は、思い切った条件を出す事にした。
「そんなに死にたいのですか」
「はい、死にたいです、死なせてください」
少女が懇願するように言った。
「落ち着いて僕の話を聞いてくれないか。君のご両親は何時も君の傍に居る。そして、君の心の中に居る。だから、会いたいと思えば、いつでも心の中で会えるではないか。それでも、死にたいと思っているなら、僕が一緒に死んであげる。だから、僕に時をくれないか」
幸樹の提案が突飛がだったのか少女が疑わしそうに尋ねた。
「一緒に死んでくれるの?本当に」
「そうだよ」
少女の悲しかった顔が喜びに変わる。
「嬉しい、死ぬ時、私、とても淋しかったの」