私の瞳に大切な人がいますー時を遡る2
聞きたかったが、今は聞いてはならないのだ。
やがて、鷺草の海に通じる駅に付いた。
「これから、悲しい海へ行きます」
幸樹は舞の手を取って歩き始めた。
「舞さんは、目が見えるように、上手に歩けますね」
「先生の導きが上手なせいでしょう:」
舞は、自分の目が見えなくなると知った週の日曜日から、目が完全に見えなくなるまでの間、鷺草の海に一人で来られるように、駅から鷺草の海まで歩く練習をしていたのだ。
やがて、湾の入り口に着いた。
「松林に入ります。足下には松の根だらけなので、足を少し高く上げながら歩くようにしてください」
やがて、舞の足が柔らかい砂に沈む。
「海岸の砂浜にでたのね」
「そう、美しい湾にね」
舞は、倒れそうになりながら、幸樹が導くてをしっかりと握って歩いてゆく、
「着いたよ」
「ここが目的地だったのね」
「そうだよ、舞さんには、何の関係も無いことだけど、ぜひ、聞いてもらいたいと思って、お誘いしたのです。どうか、聞いてください」
「はい、お聞きします」
舞はどんな話をするのか、胸をどきどきさせながら、待っていた。
「この海には悲しい事件があったのです」
舞は、黙って聞く事にした。
「今から十年前、僕は大阪の和泉葛城山の展望台で、可愛い少女に出逢いました。それから一ヶ月後の六月二十一日、この松の気の下で眠ってと、その少女が横を通って行くのです。僕は、少女があの優しい両親と一緒に来たんだと思って、周りを見ましたが、誰もいないので、不審に思い少女を見ました。すると少女は、磯の上に立ち、海を眺めていたんですが、急に両手を合わせると海に飛び込みました」
あの日の辛さを思いだした舞が泣き出した。
「分かったんですね、少女が自殺しょうとしたことを、そうなんです、僕は急いで少女を助け、この松の下の柔らかい青草の上に寝かせ、飲んだ海水を吐き出させた。すると少女の意識は戻ったが、僕を恨めしそうな目で見て、何故、助けたのかといいました。訳を聞くと、十一日前、少女の両親がこの海で死んだと言うのだ。僕は少女や少年の両親が哀れに思い、少女の両親に誓った。絶対に少女を守ってみせると、そこで、少女に、それほど死にたいなら僕も一緒に死んであげるから、時間をくれと言ったら、少女は応じてくれたんです。待つ時間が十年先だったことに少女は不満だったのか、翌年の六月十日、この海で死んだんです」