私の瞳に大切な人がいますー時を遡る
六月になっった。
鷺草に少女と交わした約束の日が近付くに従い、幸樹は、一日一日、その緊張感が増してきた。
そして、舞に愛を告げず、永遠の別れになるかもしれないと思うと、切なくて、息も出来ないほど胸を痛む。
やがて、約束の日まで、後十二日となった六月九日、幸樹は舞に自分が何をしているのかを知らせたかった。
無論、それが形を変えた遺言nなるかもしれないと考えての上である。
その夜、幸樹は舞に電話した。
「明日、僕は和歌山の海に行きます。付き合ってくれませんか」
舞には、幸樹が訳を話さなくても、舞の両親の冥福を祈りに行くことがわかっていた。
(明日は、両親の命日、きっと、私の代わりに行ってくださるんだわ)
嬉しくて、舞の目から涙が溢れた。
「はい、喜んで御供します」
「よかった、じゃあ、明日の朝、迎えに行きますから、待っていてください」
六月十日は、舞の両親が死んだ日である。
だが、舞は知らないが、幸樹の心の中では、この日、鷺草の少女も死んでいるのだ。
翌日、幸樹は、舞を車に乗せると、JR和泉砂川駅へ向った。
駅に着くと、幸樹へ車を駐車場に預け、切符を買って、改札口を入った。
「あら、車で行くのでは?」
舞が不思議そうね顔をして尋ねた。
「電車でいくことにしたんだ」
「なぜ?」
「出来るだけ車に乗らないようにしているんだ」
「それは、また、何故なの?」
「約束を果たすためです。もし、車の事故で死んだり、身体が不自由になったら約束が果たせなくなるからです。約束は僕の命、僕の人生なのです」
「そうだったんですか」
舞は幸樹から、鷺草の少女が命であり人生だと聞き、嬉しさと同時に、今の和泉舞は、それほど大切に思っていないのだと思い、悲しくなってきた。
しかし、目が見えない、足手まといな自分では、今、以上の愛を望のは無視が良過ぎると諦めていた。
舞は幸樹に流れる涙を見られないよう窓の外へ顔を向けて考えた。
(じゃあ、私を車で梅見や和泉葛城山へ、危険を犯してまで連れていったのは?)