心の故郷7
やがて、二人が帰ろうとすると、和歌子が言った。
「舞さんだけに話したいことがあるの」
「じゃあ、帰るからね、用心するんだよ」
言って、幸樹が病室を出て行こうとすると。
「先生、舞さんをお送りして頂くんだから、先に帰ったら駄目よ」
「はい、分かっています」
幸樹は、何時もの和歌子に戻ったと、安心して部屋を出た。
「話って、何でしょうか?」
「舞さん、先生の手助けをしてあげてください、お願いします」
驚いた舞は、何を、どう答えてよいか分からずに居ると、和歌子が性急に言った。
「私は先生と舞さんが、付き合うことを反対していましたが、今は、付き合って頂きたいと思っているのです」
「でも、私は目が見えないから、足手纏いになるだけで、何のお役にも立てません」
「いえ、役に立ってます。先生を孤独から守るという役にです。もし、舞さんが、先生を嫌いでなかったら、私の願いを聞いてください」
舞は、和歌子から思いがけないことを言われて困っていた。
「今、返事を頂けなくてもいいから、よく、考えてください」
「はい、分かりました」
「このお礼は必ずします、もし、舞さんが先生の奥さんになるようなことがあればですけどね」
思わぬ言葉の連続で、舞は何も言えなかった。
和歌子はm、脳梗塞の後遺症で自分の手が不自由になる恐れを感じたとき、舞の辛さが分かったのだ。
そこへ、看護師が担当医の診察をつげにきた。
「私は帰りますが、お体を大切にね」
舞は、病室を出た。
「話は終わったわ
「ええ、終わったわ」
舞の顔は喜びに満ちていた。
「いい話だった?」
「ええとても」
幸樹は舞の嬉しそうな顔を見て、知りたくなった。
「嬉しそうな顔の訳を教えてください」
和歌子の話は、実現不可能な夢のような話だった。
「誰にも話せないことなのよ」
「なるほど」
わからないが分かった振りをし、幸樹は舞を送って行った。