心の故郷6
「良かった」
幸樹が心底から安心したように言った。
「先生」
「何かね?」
「間もなく診察時間ですよ」
「本当だ。やっぱり舞さんはすばらしい。どんな時でも冷静な判断がある。じゃあ、舞さんを家に送ったから医院へ帰る」
幸樹は舞を送っていった。
その数日後、和歌子が舞の家に来て、苛めたことを心から謝り、帰っていった。
五月も後、少なくなったある日、和歌子が彼方医院へ出勤してこなかった。
遅刻や休む時は、必ず連絡する和歌子が何の連絡もしてこないため、和歌子の家に電話したが通じなかった。
幸樹が心配していると、和歌子の家族から電話があり、和歌子が脳梗塞で倒れ、救急車で病院に運ばれたと知らされた。
幸樹は、すぐ、見舞いに行きたかったが、患者が診察を待っているので行けない。
そこで、幸樹は、昼の休憩時間に行くことにした。
昼の休憩時間になり、幸樹は見舞いに行こうとしたが、一応舞いにも連絡しておくべきだと考え電話した。
「えっ?あの元気そうね和歌子さんが、脳溢血で倒れたんですか」
「そうなんだ。舞さんには、ずいぶん酷いことをしたけど、僕にとっては、母親以上にお世話になった人だから心配しているんだ」
「先生にはお話していませんでしたが、和歌子さんが、わざわざ、私の所へ来られ、何度も何度も謝ってくれました。和歌子さんは、決して悪い人ではありません。私は、和歌子さんの身体が心配でなりません。今日、先生がお見舞いに行くようだったら、私も一緒に連れていってください」
「分かりました、でも、今日はよした方がよいと思う」
「何故ですか?」
「面会謝罪だから、行っても会えないよ」
「でも、和歌子さんは私の恩人でもあります、ぜひ、連れて行ってください」
「優しい舞さんらしい。分かりました。じゃあ、すぐ、迎えに行きますから待っていてください」
舞は幸樹に連れられ、和歌子の見舞いに行った。
幸樹が予測したように、誰も和歌子に面会できなかった。
ただ、一つの朗報は、軽い梗塞だったので、一ヶ月もすると、退院できるとのことだった。
一週間後、和歌子の面会が可能になったので、舞は、幸樹と一緒に和歌子を見舞いに行くと、和歌子は涙を流しながら舞にお礼を言った。