悲しみの海−2
幸樹は目を擦ってよく見た。
「あっ」
思わず、小さな声をあげていた。
そして、呟いた。
「サギソウの少女が来る、これは夢なんだ」
白い雲を見ていたので、幸樹はまだ、夢の続きだと思い目蓋を擦った。
「これは夢ではない、確かに、サギソウの少女だ」
少女は幸樹が寝転んでいることには気付かずに通り過ぎた。
幸樹は、少女が和泉葛城山で出逢った少女だと気付き、両親を捜したが居ない。
子供は親の先へ先へと行きたがる、間もなく、両親が来るだろうと考えた幸樹は、湾全体を見渡した。
しかし、人一人居なかった。
だが、幸樹は、少女の両親は、暑さを避けるために、涼しい松林の中で、少女が戻ってくるのを待っていると考えていた。
そこで、少女を見ると、何時の間にか磯の上に立っていた。
(服装は、展望台で見た時と同じだ)
少女を見ながら幸樹は不思議な出逢いに驚きながらも、幸せそうな親子の姿を思い浮かべていた。
しばらくの間、少女は、海を見ていたが、両手を合わせ、海に飛び込んだ。
「待て、死ぬな!」
幸樹は、叫びながら磯に駆け上がると、少女目掛けて海に飛び込んだ。
少女は助かる気がないのか、泳ごうともしないで海底へ沈んで行く。
幸樹は追い掛け、少女に手が届くと、抱くようにして海面に上がってきた。
幸樹は少女を松の木陰に運び、若草の上に寝させ、海水を吐き出させた。
すると、少女の意識が戻った。
「私、死んだの?」
少女が咳き込みながら言った。
幸樹が首を横に振った。
「私の父さんや母さんはこの海で死んだの。だから、私は死ににきたの。それなのに、なぜ、死なせてくれなかったの!」
幸樹を恨めしそうな目で見た。
(十日前、事業に失敗して自殺した鷺草という名の夫婦がいた。場所は伏せていたが、この場所だったのか。そして、夫婦はこの少女の両親だったのか。和泉葛城山で親子が楽しんでいたいのは、最後の別れだったのだ、哀れな親子)
幸樹の目から涙が溢れる、
(僕は、あなた達ご夫婦の大切な子供さんを、絶対に死なせないと約束します)
少女の両親の悲しさを思うと、幸樹は誓わずにはいられなかった。