心の故郷2
しかし、今日は、舞を連れているので、同じ登山道と登れないため、車道を通ることにした。
車は鬱蒼と茂った森林道路に入り、頂上に向っていると、何組もの登山者や下山者に出会い、頂上に近付くに従い、木々は疎らになり、明るい日差しを浴びるようになった。
やがて、車は和泉葛城山の駐車場に着いた。
開けた窓から、女子供の賑やかな声が聞こえてくる。
「着きましたよ」
「もう、着いたの?」
「そう、レストランの広場の前にね」
「だから賑やかなのね。人は多いの?」
「それほどでもないけど、親子連れで賑わっているよ」
舞の目に十年前の景色が甦り、思わず涙が出そうになる。
幸樹は駐車場に車を停め、舞を車から降ろした。
「いい薫り」
舞が気持ち良さそうに大きく深呼吸をした。
「もっと、いい薫りがする所へ案内するからね」
舞には、そこが何処か分かっていたが知らない振りをした。
「そこは何処なの?」
「そこへ行く前に、神様を参拝しましよう」
幸樹は、和泉葛城山頂上の神社への階段を舞の手をとり登り、竜王神社と葛城神社を参拝した。
「すぐ下に展望台があるんです。その展望台の窓へ吹いてくる風の中には、この美しい紀和高原の全ての薫りが含まれているんだよ」
「景色が見えなくて残念ですけど、ぜひ、行ってみたいわ」
「展望台へ続く道は、雨風に曝されて危険な道だから、ゆっくりと歩くよ」
(この強い手は、絶対に死なせないと言った時の手と同じ)
舞の目に、優しい幸樹の姿が映り、自然と涙がでる。
やがて、展望台の最上階へ上がった。
「さあここが展望台です」
幸樹は無意識に鷺草の少女が手を振っていた窓へ舞を誘い、自分もあの日と同じ所に立ち萱草原を見たが、その顔が見る見る失望に変わった。
聞こう変動か時期のせいか定かではないが、青々とした萱草原は無かったのだ。
「青い萱草原と模型飛行機を見たかった」
小さい声で、幸樹が失望したように言った。