岐路3
「患者さんは、その女性ですか」
「そうだ、よろしく頼む」
奥さんがお茶でもと言ったら、田中が、
「お茶は彼方だけでいい、なぜなら、このお嬢さんは、一秒でも早く、結果を知りたいと思っているから、お茶など飲む余裕がない、そうでしょう」
「はい、いえ、、」
急に声を欠けられた舞は、どう答えたらよいか分からない。
田中は、舞の返答を待たずに
「診察するから、診察室へ入ってください」
と、診察室を手で示した。
「じゃあ、奥さんの好意を無にしてわるいけれど、診察室へいきなさい」
幸樹がいうと、舞がか細い声ではいと言った。
やがて、診察を終えた舞が応接室にもどると、田中が彼方を診察室へ招いた。
「単刀直刀に結果を話すが、結果は著しく良くない。だが、可能性はある」
「可能性?」
「そうだ、適合する角膜があれば治せるよ」
「絶望ではないんだな、良かった」
「じゃあ、患者さんを呼んでくれ、結果を詳しく説明し、どうすれば、角膜の提供が受けられるか説明する」
結果を聞いた舞は、少し悲しい顔をしたが、覚悟していたのか、すぐ、平常の顔に戻ると、丁寧にお礼を言った。
「じゃあ、ゆっくりと、妻とゆっくりお茶でも飲んでください」
「先程、奥様とお茶を頂きながら、色々とお話を伺いました」
「そうでしたか、我々の陰口を」
「いえ、目の病気や、心の持ち方、そして、生活など一般のことです」
「妻は、精神科医です。少しは役立ちましたか」
「はい、心が軽くなりました」
「それは良かった」
田中は優しい笑顔を見せた後で、
「彼方、間もなく午後の診察が始まるけど、お前は遅れて帰ってもいいのか?」
「そんな時間になっていたか、じゃあ、帰る。今日は有り難う、また、時間があったら合いたいね」
「そうだ、今度の日曜日に会わないか」
「よし、会って、思い切り喋ろう」
舞と幸樹が医院を出ると、幸樹を田中がちょっと来いと呼び止め、小さい声で尋ねた。
「なんて美しい女性なんだ、もしかしたら、お前の恋人か」