喜びの後10
大阪城公園で、最後の楽しい時間を過ごして帰った舞は、幸樹に送られ我が家に帰っても、天にも昇るような幸せな気分だった。
家に入ると養母が驚いたように言った。
「とても綺麗よ、先生と何かあったの?」
「何かって?」
「恋しているような顔をしているわ」
「違うわ」
舞が顔を真っ赤に染めて否定した。
「まあ、いいわ。じゃあ、何か嬉しいことがあったの?」
「大有りよ、先生はね、私を一生、雇うと約束してくれたのよ」
「それは本当かい」
「ええ、はっきり約束してくれたわ」
「それは良かったね。これで、私も舞の将来を心配しなくてよくなったわ。無論、お父さんもよ。今度、先生に会ったら、私からもお礼をいわなくちゃあ」
と養母は満面に喜びを現していた。
翌日、舞が出勤すると、和歌子が優しく尋ねた。
「舞さん、昨日はどこに行ったの?」
舞は、和歌子の優しい言葉に、つい、恐ろしさを忘れて話した。
「はい、先生と大阪城公園に行きました」
「何をしに?」
「梅の花見です」
「そう、良かったわね」
「はい、久しぶりの花見だったので、すごく楽しかったです」
「先生は?」
「先生も楽しそうだったわ、いえ、心底から楽しんでいらしたと思います」
「それが貴女の答えなの」
言うと和歌子は柳眉を逆立てると、烈火の如く怒りだした。
「あれほど、先生とは親しくしないようにと注意したのに無視したのね、もう、明日から医院に来なくてもいいわ。何度も言うけど、貴女は先生のお荷物、決して、先生を幸せにできる人はないのよ。帰ったらよく考えなさい」
言うだけ言うと、肩を怒られて出ていった。
舞は、すぐ、事務室を飛び出し、家に帰りたかった。しかし、先生かお兄さんだと知った今、とても、医院から去ることなど出来なかった。
数日後。
舞を奈落の底へ叩き込む者が現れたのだ。
「初めまして、私は彼方早苗と申します」