喜びの後6
幸樹は、突然、泣き出した舞に驚き、どうすれば良いか分からず、見守っていると、
「でも、悲しい•••」
言って、尚もなく。
「何を悲しむのですか、力になるから教えてください」
幸樹が驚きを隠し、優しく尋ねた。
「私の目が見えたら、先生の大好きなサンドイッチを作り、先生に召し上がって頂けたんです。そして、シートも。でも、それが出来ないから悲しいのです」
幸樹の心使いが、舞を喜ばすと同時に、舞を悲しませたのだ。
そして和歌子の言葉を思い出させたのだ。
(私は先生にとって、重すぎるお荷物だわ、悲しいけど、医院から出て行くことが先生の幸せに繋がっるのね)
悲しくなった舞は、涙を止められなかった。
「僕はサンドイッチが大好きなんです。それも、卵焼きを挟んだものがね。舞さんは、卵を食べても大丈夫ですか」
幸樹は、卵によるアレルギーを起こす人の事を思い出したのだ。
「はい、私も大好きです」
「それはよかった、これを食べなさい」
幸樹は、舞が泣き止むのを待ち、サンドイッチとお茶が入ったペットボトルを舞の手に持たせた。
幸樹は、舞が食べやすいように、小さなサンドイッチを作ってきたのだ。そのことを知ったのか舞が言った。
「先生の優しさが、私を泣かせたんです、泣かせたのは先生よ」
舞が恨めしそうに言った。
「僕の優しさ•••」
「ええ、そうよ」
言って、舞は、悲しみと嬉しさを噛み締めるように、サンドイッチを食べはじめた。
幸樹は、鷺草の少女が恨めしげに、助けてくれても、お礼を言わないわ、と言っていたことを思いだした。
(僕は、絶対に鷺草の少女と舞さんを幸せにしてみせる)
と改めて誓った。
幸樹は自分の正体を明かすのは、鷺草の少女と逢う寸前にしょうと考えていたので、出来るだけ舞との食事をすることを避けていた。
そのため、サンドイッチを食べる時は、無粋で不自由だが、マスクを外し、話す時はマスクをかけていたのだ。
幸樹がマスクを外した時。
「痛い!」