喜びの後5
「分かったわ、寒紅梅です」
「正解、よく知っているね、どこで覚えたの」
「近所の公園です」
「じゃあ、この花は」
しばらく考えていたが、自信無げに言った。
「道知辺ですか」
「僕に質問は禁物です。道知辺と答えてください」
「どうしても?」
「自信ないなら、もう一度」
舞は、自分の唇のような花の中に顔を埋めた。
「答えます。やっぱり、道知辺です」
「正解、じゃあ、この花は」
「はい、月の桂です」
「ブー残念でした。この花は、鶯宿です」
「私、鶯宿なんて初めてだわ、流石、先生ね、何事もよくご存知だわ」
「鶯宿の字から判断すると、美しい声で囀る鶯が宿るという意味でしょうね」
「何でもご存知だから、本当に驚いたわ」
「実は、梅の木を見たのは、今日が初めてなんだ
「本当?じぁあ、何故、正解、不正解が言えたの?」
舞が納得できない。
「実は、梅の木には、名札が付いているんだよ」
「ずるいわ、知った振りするなんて」
ずるいの言葉が、幸樹の心に食い込んだ。
しかし、それが何か分からなかった。
「はい、早く続きを」
舞が楽しそうに言った。
クイズをしているうちに、何時の間にか梅林を出ていた。
すると、梅の花の薫りから、美味しそうな食事の匂いに変わっていった。
辺りをよく見ると、彼方此処で、家族らしい人たちが、楽しげな食事をしていた。
「舞さん、食事をしませんか」
「はい、近くに食事する所があるんですか」
「あるにはあるけど、今日は、舞さんを太陽の光を浴びながら、青い芝生の上で食事をさせて上げたいと思って、今朝、僕がもっとも得意とするサンドイッチを作り、持ってきました。味は保証しますから食べてください」
言うと、シートを敷き、舞を座らせた。
「嬉しい!」
舞がシートに泣き崩れた。