喜びの後2
二人の男は、表道路を歩きながら話していた。
(お兄さんが誰かと話ながら通っている)
舞は胸が詰まる程の衝撃を受けた。
(私は今の境遇をそれほどの不幸とは思っていない。でも、お兄さんが見たら不幸だと思い、いずれ、私が自殺するかもしれないと思って、日夜、心配するでしょう。だから、私は、お兄さんに今の姿を見せられない。後四ヶ月経ったら、お兄さんは、私との約束を果たすために、鷺草の海へ行くでしょう。でも、私は絶対に行きません。なぜなら、鷺草舞は幸せになっているからです)
外の道では、幸樹がマスクを外し、近所の人と話ながら歩いていた。
もし、舞が飛び出していったら、
「舞さん、飛び出してきたら危ないよ」
マスクを外してしていることを忘れ、思い外へ出なかった。
舞は、外の声に耳を傾けた。
しかし、もう、声は聞こえてこなかった。
(逢いたい!)
舞は心の中で悲痛な叫び声を上げていた。
哀しみを忘れさすように電話が鳴った。
「はい、彼方外科医医院です」
電話は患者から、今から行くと、診察が終わるのは何時だとの問い合わせだった。
「はっきりと断定できませんが、一時間後になります」
電話の主は、じゃあ、すぐ行くと言って電話を切った。
今日は月曜日だったので、多くの問い合わせがあり、それに対応している間に、早、昼の休憩時間になった。
舞は義母が作ってくれたお弁当を食べていると、幸樹が入って来た。
「どうぞ、お入りください」
舞は和歌子に申し訳ないと思いながら、喜んで迎え入れた。
「どう、仕事になれましたが?」
「ええ、毎日、楽しみながら仕事をしています」
「そう、それは良かった、もし、困ったことがあったら、遠慮せずに、すぐ、言ってくださいよ」
「はい、ありがとうございます。でも、何も不足していません」
舞は、出来るだけ、無愛想に言った。
しかし、内心では、和歌子に叱られると思いながらも、何時までも、幸樹に居て欲しいと思っていた。
幸樹は、心配そうに尋ねた。
「元気がなさそうだけど、仕事疲れですか?」
「いえ、なんともありません」
舞は楽しそうな顔をして答えた。