悲しき再会6
それから幸樹は、舞に必要なことを全て教え、診察室へ行った。
翌日から、舞は一生懸命、電話受付の仕事をしていた。仕事は主に、診察時間の問い合わせだったが、想像していたより多くの電話がかかってきた。
目が見えない舞にとって、どんな用件による電話であろうと、健常者と会話出来ることは、生きているのだと言う実感が持てた。
(私の天職は、この仕事だわ、いつまでも、この仕事がしたいから、一生懸命に頑張るわ)
舞は嬉々として働いた。
そんな舞を時々訪れた幸樹が嬉しそうに眺めていた。
しかし、幸樹の舞に接する態度が和歌子には気に入らなかった。
我慢できなくなった和歌子は、幸樹に言った。
「先生、舞さんに夢中になったらだめよ」
「なぜ、そう見える」
不意を突かれた幸樹は顔を赤くして尋ねた。
「舞さんに恋しているように優しいんだもの」
「そんな心算はないよ」
和歌子が開き直って言った。
「言い訳しても駄目。ここで、はっきりと先生に忠告します」
「何にをかね?」
「舞さんとの結婚はおやめください」
「する気はないが、何故?」
「目の不自由な人と結婚したら、先生の医療業務の妨げになるからです。結婚する人は先生の補佐が出来る女性でなくてはなりません」
「差別はいけないよ」
幸樹がとがめると。
「私は、先生のお母さんに頼まれているのです。幸樹を助けてくださいと。だから、先生の足手まといになる舞さんとは、絶対に結婚させません」
「困ったことをいう和歌子さん」
鷺草舞との約束を果たすためには、誰とも結婚する意志がない幸樹にしてみれば、和歌子の心配が馬鹿げて見えた。
「そうだ!私がよいお嬢さんを見付けてくるから結婚しなさいよ。そうすれば、早苗さんだって、絶対にこなくなるわ」
「考えておくよ」
和歌子の話を聞きたくなかった幸樹は、診察室へ行った。
虫がおさまらない和歌子は、舞の事務所へ行き。
「舞さん、先生に優しくされても、先生を好きになったらだめよ」
舞は、考えもしなかったことを言われ、ただ、おろおろとするばかりだった。