別れの連鎖7
「警察に突き出したらいいのに」
和歌子は不満そうに言ってから、早苗を応接室へ連れていった。
幸樹が午前の診察が終わり、応接室へ行くと、早苗が同じことを言った。
「なぜ、私に隠れて引っ越ししたの!」
怒りで声が震えていた。
「隠した訳ではない。患者が来なくなり、病院経営が成り立たなくなったからだ。まして。君は僕と何の関わりもないから、引っ越しを通知する義務はないよ」
「違うでしょう、私に慰謝料を払うのが嫌で引っ越しをしたんでしょう」
「慰謝料?何の慰謝料だ!」
腹が立った幸樹は、語気を強めて言った。
「離婚の慰謝料よ」
「馬鹿を言うな、僕に払う義務はないよ」
「でも、貴方が離婚を言い出したんでしょう」
「当然だろう、僕の大切な子供を殺したんだから」
「確かに殺したわ、でも、それを理由に私は離婚を強要され、恐くなったから離婚に同意したのよ」
自分のしたことを棚にあげ、幸樹を脅迫した。
「よくもそんな嘘が言えるね。何と言われても、慰謝料を払う気持ちはないから
「裁判に訴えても慰謝料を取ってみせるわ」
元妻のあまりにも勝手ないい分に怒った幸樹が言った。
「勝手にしろ」
「ええ、勝手にするわ。今度、来る時には弁護士同伴よ、覚悟していなさい」
言うと早苗は帰って行った。
険悪な二人の様子を見ていた和歌子は、早苗が帰ると、誰かに電話していたが、終わると興奮した顔をして幸樹に言った。
「驚かないでね、今電話で、知人に聞いたんだけど、早苗さんは会社をリストラされたそうよ」
「まさか、あの早苗が」
「ええ、三年前にリストラされたのよ、それも一番に、余程、評判が悪かったのね」
「リストラか、あれほど会社に忠実だった彼女がね、その鬱憤を僕で晴らそうとしているのだろうか、可哀相に」
「だめ、また、お人好しになる。早苗さんは、それほど善人ではありません。女は女をよく見えるから、分かるのよ。もう、関わらないでください」
「分かったよ」
早苗の後ろ姿を見ていると、急に哀れになってきた。
(多くは出来ないが、慰謝料をあげよう、もう、哀れな人を見るのは懲り懲りだ)
翌日、幸樹は早苗の口座に現金を振り込んだ。