別れの連鎖6
「いえ、医院の休診時間である、午後一時から午後五時までの間です。私も一緒に付き合います」
「和歌子さんの休憩が無くなるよ」
「往診があった日は、夕方の勤務を休みます」
「なるほど、先の先まで考えているんだね」
幸樹が感心していると。
「物事を提案するためには、当然、先のことまで考えていないと出来ないわ」
「恐れいりました」
幸樹は、和歌子が自分以上に医院のことを考えていると思うと。自分もうかうかしていられないと思った。
インフルエンザの流行は、未だ終息を見ず、幸樹は忙しい日々を過ごしていた。
幸樹は若い女性患者が診察に入ってくる度に、不謹慎であるが、舞であるようにと、秘かに期待した。
しかし、舞とは、二ヶ月が過ぎても逢う事ができなかった。
だが、招かざる客の早苗が来たのだ。
それも、正面からでは、会ってくれないと思ったのか、患者になって、幸樹の前に現れたのだ。
早苗は診察室に入るなり怒鳴るように言った。
なぜ、引っ越しを隠していたの!」
幸樹は答えず。
「怪我、それとも、どこか痛みますか」
患者のように対応した。
「どこも悪くないわ、決着を付けにきたのよ」
「患者でないなら、出て行ってくれ。後には、痛みを堪えながら、自分の順番を待っている患者さんが沢山いるんだ」
「そんなこと、私に関係ないわ」
早苗の言葉に怒った和歌子が言った。
「診察の邪魔をしないでください」
「貴女は看護師でしょう、口をださないで」
「先生、警察を呼びましょうか?」
「そうだね、これ以上、診察の邪魔をしたら、警察を呼ぶからね」
「呼びなさいよ。喚いて評判を悪くしてあげるわ、覚悟しなさい」
警察を呼ぶと、患者の診察が出来なくなるため、不本意ながら、早苗の求めに応じることにした。
「分かった、診察が終われば話を聞くから応接間で待っていてくれ。和歌子さん、悪いが、この女性を応接室へ案内してくれないか」