別れの連鎖3
早苗と会うのは、もう、うんざりである。
逢いたい舞には逢えず、絶対に会いたくない早苗には会う、どうしたら、早苗との縁が切れるのか、切れるなら、どんな犠牲を払ってもいいと思う幸樹だった。
一週間後
「交通事故ですが」
看護婦が尋ねた。
「そうだよ」
言いながら幸樹は手術室に走っていった。
施術室に入ると、看護婦が幸樹を患者の元へ案内した。
「この人よ」
幸樹が見て驚いた。
「あっ、僕の父親だ!」
と悲痛な声を上げた。
「お父さんですか」
待機していた看護婦などが驚いたように言った。
「みなさん、心を落ち付けてください。すぐ、手術を始めますからね」
幸樹には、一目で、父親が助からないことが分かった。
その悲しみをに堪えながら手術を始めたが、手術半ばで死んでしまった。
目の前で、愛する父親を失った幸樹の悲しみは筆舌で表せないほどだった。
父親は帝塚山で医院を開業していた。無論、実家である、幸樹は大学病院から、一週間の休暇を取り、実家で父親の葬儀を行った。
日本橋のマンションから実家へ引っ越し、後片付けをしいると早苗がやってきた。
「この度は、お父さんが亡くなり、お悔やみを申し上げます」
離婚したとはいえ、一時は、家族の一員となった早苗であるために招き入れた。
幸樹は、父親の位牌に線香を立て、位牌を拝む早苗の姿を見ていると、無下に帰れと、言えなくなり、早苗のしたいようにさせることにした。
「お父さんに衝突した車は、トラック、それも酒酔い運転でしたのね、許せないわ」
早苗は、自分が課長に昇進した時のように、幸樹の前で真実の涙を流した。
「君から、弔いの言葉を聞いて、父も草葉の陰から喜んでいると思います。有り難う」
早苗を邪険に扱わなければ、もう来なくなるのではないかと考え、出来るだけ、丁重に、扱った。
「いえ、今はどうあれ、以前は親子なんですから当然のことをしただけです」
流石の早苗も、今日だけは、幸樹に無理難題を持ち掛けず、黙って帰ったいった。
一週間後、幸樹は父親の医院を継ぐため、勤務先の大学病院に辞職願いを提出したが、後任医者の手配が付かず、退職できたのは一ヶ月半後になった。