別れの連鎖1
二週間後の朝、幸樹は平静をよそおっていたが、心の中では、舞に逢えるか、それとも逢えないのかの堂々巡りをしながら、難波駅へ来た。
改札口を通り抜けプラットホームに着くと、和歌山方面から到着する特急、急行、準急行や各停なの電車が続々と入ってきて、降りた乗客でプラットホームは混乱していた。
その中に、数人の女性が髪を後ろに束ねていた。
二週間前の幸樹なら、その人たちが目に止まらなかった。しかし、今日は、もしや、舞ではないかと、その姿を目で追い掛ける。
やがて、急行電車が到着し、全ての乗客が降りると、ドアが閉まり、反対側のドアが開き、電車の前後や側面の行き先表示が、なんば行きから和歌山港行と変わった。
その電車に乗った幸樹は、閉じたドアや窓越に、プラットホームを歩く人たちの中から髪を後ろで束ねた女性の姿を捜す。
やがて、発車ベルが鳴ったのと同時に、自分の横に座る人が居た。しかし、それさえ気付かないのか、幸樹は髪を後ろで束ねた女性を捜す。
電車がスピードを上げたとき。
「おはよう」
聞き覚えのある声に幸樹は驚いて横を見た。
「なんだ、君か」
「それが、元妻に対する言葉なの!」
早苗の高飛車な言葉を聞いた幸樹は、一番、聞きたくない声を聞き、怒鳴りたいが公共の場なので我慢した。
「何故、返事をしてくれないの」
と詰め寄る。
「分かったよ。おはよう」
「別れても元妻なんだから、それなりの対応をしてください」
「分かったよ」
逆らえば逆らうほど、早苗の声は大きくなるため、出来るだけ逆らわないようにした。
「今日は、なぜ、この電車に乗ったのか聞きたくないの」
「別段、聞きたいとは思わないね」
早苗は幸樹に無視されても平気な顔をして言った。
「今日は、貴方が、どんな仕事をしているかを見学するためにきたのよ」
「見学、それは無理だよ」
「どうして?」
「午前中は外来の診察、午後からは、病棟の回診だから、君の見学は不可能だよ」
「じゃあ、仕方がない。食事を一緒にしましよう」