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永遠の別れ?7

 幸樹を見た舞が、心の中で(お兄さん)と呼びかけた声が幸樹の耳に聞こえたのか、幸樹は動けなくなった。

 幸樹は鷺草の少女に謝った。

(ごめんよ、君のことを忘れたりして)

 幸樹は、哀しげに視線を舞の顔から青い空へ移した。

 舞は、霞んで見える幸樹の姿を焼き付ける、その目に涙が溢れる。

 そして、幸樹に、また、私よと告げたいと思った。

 しかし、出来ない、幸樹の心の中で、鷺草舞は何時も幸せで居なくてはならないのだ。

 舞に出来ることは、どんなに辛く悲しくて、死なずに頑張って生き抜き、心の中で幸樹を、私だけのものよ、と愛するしかないのだ。

 幸樹は、舞の心の内は分からなかったが、朝の舞の様子から、二度と逢えなくなるということだけは分かった。

 電車は動きだした。電車が消えたら、舞と永遠の別れがくると思うと悲しくなる幸樹だった。

「愛する人との別れは悲しい。悲しい別れに神や運命は味方しないのが当然の定め。もし、神や運命の加護があれば、辛い別れなど有りはしないのだ」

 幸樹が哀しげに呟いた。

 舞は見えない目を一杯に開き後方に顔を向ける、幸樹はその顔を胸に焼き付ける。

 一時間前に降った雨は、東に去り、空に美しい虹を架けていた。

 その中へ、舞をのせた電車が消えて行く、その電車を見送る幸樹の目は涙で光っていた。


(なぜ、今朝、あの女性の心が分かったのだろう。もしかしたら、僕の思い違いだったのではないか。女性の心が分からない、僕にお礼を言いたいなら、いつでも言えた筈なのに。そして、僕に切ない思いをさせた彼女は、僕に好意を抱いていたのだろうか、それなら、別れなどする必要がない。やっぱり、結婚か、女性は結婚が近づくと、急に、新しい環境に入るのが恐くなる人も居ると言う。ただ、確かなことは、あの女性にとって、僕は相応しくないほど年が違うことである。でも、僕は彼女を愛している、死ぬほどに)

 幸樹の心は、辛い別れを目の前にし、あれほど、鷺草の少女に謝っていながら、それも忘れたのか、舞への慕情をつのらせていた。

「あの女性が永遠の別れと言ったのではない。それなのに、僕はなぜ悲しむ。きっと、二週間後には逢える筈」

 呟いた幸樹は、力なくベンチに座った。その背に暑い西日が射す。

「しかし、逢ってどうなるのだ。残るのは哀しみだけなのに」

 幸樹の心は哀しみのため、千々に乱れる。

(くよくよするな。また、逢えるか逢えないかは、再来週に分かる。もし、電車に乗ってなかったら結婚したのだ。その時は、心から祝福を祈ってあげる。それが僕にできる彼女へのただ一つの贈り物)

 目を閉じると、幸樹の脳裏に自分を見つめる舞の顔が浮かぶ。

「僕は、貴女の顔を一生涯、この胸に抱いてるからね」 

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