永遠の別れ?5
「悲しいお話はお仕舞いにして、久しぶりに、一緒に帰らない?」
美鈴が舞を誘った。
舞は、美鈴の誘いを受け、各駅電車に乗って帰っていった。
やがて、六月九日の夜がきた。
翌日、早くベッドを出た舞は、化粧を始める。
だが、涙が化粧を台無しにする。
何度も同じことを繰り返しているうちに、涙が涸れはじめたのか、美しく出来上がった。
家を出た舞は、明日から通ることがない道を心の中に刻みながら歩き、神に願う。
(お兄さんに逢わせてください)
なぜか、幸樹が電車に乗っていないような予感がしたのだ。
舞は悲しくて涙が止まらない。
心は急ぎ舞の足も早くなる。
舞は泉佐野駅へ急いだ。だが、目の悪化と涙が道を見えなくし、焦れば焦るほど、歩く速度が遅くなる。
(居たわ)
眠っている幸樹の顔を見て、舞の美しい顔が一層、輝いた。
舞は幸樹が目を開けるまで、席に着かず、立ったまま、幸樹を見つめていた。
その気配を察したのか、幸樹は目を開けた。
しかし、舞の美しさに魅了されたのか、何時ものように、知らない振りが出来なかった。
舞は自分の一番、美しい姿を幸樹に見せ、幸樹の胸の中で永遠に生きていたいと思い、美しく化粧をし、新しい服装を着てきたのだ。
舞は心の中で言った。
(みさき公園駅で、永遠のお別れがしたいです)
舞の言葉が通じたのか、幸樹が頷いた。
それを確認した舞は、幸樹にたいして、最後の笑顔を浮かべると席に着いた。
幸樹は、舞が別れをしたいと言う意味を誤解した。
(あの美しさは、結婚が間近に迫っているのではないか、彼女は僕にお礼を言いたいが、僕が無視し続けたので、今日の帰りに、お礼が言いたいために、逢いたいと言っているんだろう)
幸樹には辛い予測だった。
舞と幸樹は互いに別れの辛さを堪えるかのよう、静かに目を閉じた。
電車がみさき公園駅に着いた時も舞は幸樹を見送らなかった。
悲しみを堪えるためでもあるが、午後六時には、また逢えるからだ。
舞と幸樹は、胸に悲しみを秘め、仕事場へ向かった。
その日の午後五時、幸樹は何時もの時間より早めに、みさき総合病院を出た。
だが、外は雨、幸樹は院内へ引き返したが、傘を借りることが出来ず、雨降る中、みさき公園駅へ急いだ。