永遠の別れ−1
翌年の二月の寒い日。
舞は、自分に不幸が忍び寄っているともしらず、電車に乗った。その舞を無視するかのように眠っている幸樹の顔をみると顔が見れなくなった。
舞は幸樹が何処かへ行ってしまったように思え、急いで、目を大きく開いたが何も見えない。
涙のせいだと思った舞は、目を拭いたが見えないため、目を閉じ、原因を考えていると、以前に読んだ本を思いだした。
人間は耐えられないほどの悲しみや苦しみに遇うと、急に、目が見えなくなることがあると。
そこで、舞は、悲しみや苦しみだけでなく、精神的に動揺する期間が長くても、目が見えなくなるのではないかと考え、目を休めることにした。
やがて、みさき公園に着いた。
舞は恐る恐る目を開けた、その目に幸樹の姿が写ったので、目が疲れているのだと思い安心し、幸樹を見送った。
その日、勤務を終えた舞は、紀ノ川駅で、和歌山市行きの電車を待っていると、同僚の木村美鈴が声をかけてきた。
「もう帰ったのかと思ったわ」
「ええ、乗り遅れたのよ」
困った顔をすると。
「残念だったわね」
美鈴は同情した。
「仕方ないから、次の電車を待つわ」
「次って、何分後?」
「二十分後よ」
「寒いのに、二十分も待つの?」
美鈴が寒そうに身体に身体を縮める。
「仕方ないわ」
「そうだ、私と一緒に帰らない」
「美鈴さんが乗る電車は各停でしょう」
「そうよ、でも、次の各停は、泉佐野まで先着するのよ。だから、寒いプラットホームで待つ必要がないわよ」
「そうなの、じゃあそうするわ」
二人は、加太線のホームから南海本線の紀ノ川駅プラットホームへ移動した。
美鈴の住まいは孝子駅の近くにある。
孝子駅は紀ノ川駅とみさき公園駅の間にあり、各停の電車しか停まらない。
舞と美鈴は、到着した難波行き各停に乗った。