再会-7
「あら、見ていたんですか」
舞が恥ずかしそうに言った。
「僕は、男性が飛びのってきた時、すぐ、危険を感じたけど、助けに行く時間が無くて残念だった。でも、優しい男性が居たんで怪我をせず、良かったね」
池上は、舞が慎一と婚約、そして、結婚すると知ってからは、舞への思いを露骨に表すことをしなくなった。
「ええ、良かったわ」
言いながら、自分が幸樹に抱いている感情を察知されたら、慎一に告げられる恐れがあると心配した。
そこで、電車の中では極力、幸樹に対する思いを表さないように心がけることにした。
退社時間がきたとき、慎一が電話で会いたいと言ってきたが、どうしても会う気分になれず、体調が悪いと言って断った。
その訳は、帰りの電車で、幸樹に逢える気がしてならないのだ。
そして、今日、逢いにいかなかったら、永遠に逢えないような気がし、その切なさで舞の胸は潰れそうになっていたのだ。
だが、舞が乗った電車に幸樹が乗る可能性は非常に低い。
しかし、慎一に家まで送ってもらうよりは可能性は大きいのだ。
舞は、大急ぎで和歌山市駅から難波行きの急行電車に乗った。
やがて、みさき公園駅に着いた。
舞の心臓は早鐘を打つ、舞は目を皿のように大きく開いてプラットホームを見渡した。
だが、幸樹の姿はなかった。
(もう、逢えないのね。名乗ればよかった)
舞は切なくて、胸が締め付けられた。
翌日、舞は、幸樹が電車に乗っていることを期待しながら、電車に乗ったが、その姿はなかった。そして、翌日も。
翌日の木曜日、舞は幸樹に逢えなくなったのは自分のせいだと後悔しながら、到着した電車に乗った。
(居た!神様が私の願いを聞いてくださったのだわ)
幻でなく幸樹が現実に居たのだ。舞は、挨拶をしようとして、幸樹を見ると、幸樹は、先日のように難しい顔をして目を閉じていた。
幸樹がこの電車に乗るようになった訳は、幸樹が勤務する大学病院に岬総合病院の院長が現れ、二週間に一度の木曜日、外科医の応援を要請した。
大学病院の理事長と岬総合病院の院長は、先輩後輩の親しい間柄だったので、幸樹が派遣されることになった。
親が町医者である幸樹は、常々、総合病院なるものを体験したいと思っていたので、快く引き受けた。
その初日に舞と再会したのだ。