再会ー6
しかし、そんなことを知らない舞は、幸樹が舞を無視したのは、自分のことを忘れているからだと悲しんだ。
(お兄さんは、もう、私の顔も忘れたんだわ)
恨み言の一言も言いたい思いだが、難しい顔をしている幸樹の顔を見ていると、できることなら力になりたいと思った。
「みさき公園駅、みさき公園駅です、、、、、」
車内放送が聞こえてきた。
やがて、電車が停まると、幸樹が電車を降りる、その後ろ姿を舞は、食い入るように見つめていたが、幸樹への慕情が沸き上がってきた。
舞は幸樹の後を追い掛けようとした。追いかけたら、もはや、心の制御が効かなくなることを舞は知っていた。
(私は、お兄さんに恋してはいけないわ、そして、正体も明かしてはいけない。お兄さんは、私の幸せを考え、二度と逢わないことを望んでいた)
嵐のような海で見た幸樹の姿を思い出した舞は、また、涙を流す。
(私は名乗って、色々話したい。でも、そうすれば、お兄さんは、きっと、こう言うでしょう。よく名乗ってくれたね。婚約おめでとうと祝福してくれ、あの約束はどうするかと聞かれるわ。私が言える答えは、お兄さんが背負った、重い荷物を降ろす約束の解消しかないわ。当然のように、お兄さんと永遠の別れがくる。私には、そんな辛いことは耐えられない)
舞は、約束の日が来ても、どんな辛苦な日々を送っていても、鷺草の海へは、絶対に行かないと決めていた。それは、幸樹の望みを叶えることが自分の役目であり、愛であると考えていたからだ。幸樹を目の前にし、心の中の想像の愛が一瞬にして、現実の強い恋へと変わったのだ。
舞の心臓は、慕情で激しい鼓動を打ち続け、幸樹の姿が霞んで見える。
涙のせいだと思い、涙を拭いたが、霞は僅かな時間だったが取れなかった。
舞は、悲しみが目を見えなくさせたいるのだと思っていた。
しかし、慎一との結婚、幸樹との再会の喜びを一気に破壊するほどの不幸が舞に忍び寄っていたのだ。
やがて電車は和歌山市に向かって疾走する。
幸樹のことを考える舞には、時間や距離の感覚がなく、気付いた時には、早く、病院に着いていた。
「和泉くん、おはよう」
振り向くと、病院に勤務する池上一夫が居た。
この男は舞に恋し、何時も、舞の行動を見ていた。
「お早うございます」
舞は、差し障りがないように挨拶した。
「電車の中で転倒しそうになって恐かったでしょう」