再会ー5
「急に言われても」
舞が困ったように言った。
「舞さんの気持ちも考えずに悪かった。ごめんね」
「いいのよ、でも、今は、何も答えられないわ」
「当然だ、僕が急過ぎた」
「今日、帰ってから、両親と相談してから、お返事をさせて頂きます」
「よい返事を待っています」
慎一は、舞の様子から、結婚を断らないと判断したのか、急に、余裕の表情をした。
その夜、舞は両親に相談すると、大賛成してくれたが、結婚の決心が付かない舞は、慎一への返事を、一日、また一日と引き延ばしていた。
すると、突然、慎一の両親が現れた。
両親は慎一の願いなら何でも叶えるのか、舞に対して、拝むように結婚してやってくださいと言ったのだ。
舞は、その態度や言葉に押し切られ、結婚を承諾した。
そして、その場で、結婚式は翌年の四月八日と決まった。
その時、慎一は舞に、病院を辞めて結婚準備をするようにと言った。
だが、舞は断った。
理由は、給料が無くなると、少ない年金で暮らす養父母にお金を渡せなくなるからだ。
舞が養父母に出来る恩返しは、養父母にお金を上げること以外にない。そのためには、例え結婚しても勤務する心算でいた。
慎一はお金のことなら心配するなと言ってくれたが、舞は断った。そして、その時、ふと思った。
幸樹に絶対逢わないと決めていたが、自分が絶対に自殺しないほど幸せになれば、約束の日に鷺草の海へ行ったとき、幸樹が舞を一目で、鷺草の少女だと分かるように、最初に逢った時も服と同じ服を作ったのが昨日だった。
(お兄さんと逢える理由ができたわ)
その翌日、舞は幸樹に逢い、無視されたのだ。
無視された辛さに堪えられなくなった舞は、また、名乗りたくなった。しかし、幸樹の難しい顔を見ていると、どうしても名乗れなかった。
(お兄さんが私を無視したのは、私の事など、どうでもうよくなったんだわ)
舞は悲しくなり、涙が出る。
人間は、二十歳から老人まで、顔の変化が少ないため、顔を覚え易い。
だが、大人が子供、それも十歳から二十歳まで大きく変化する女性を、二年も見ていないと、誰だか分からなくなる。
まして、幸樹は舞を七年以上も見ていないのだ、分かるはずがない。
また、今の舞は髪を後ろに束ねた上に、幼い舞の夢を見た直後、美しく成長した舞の顔を間近に見たのだ。
強烈な印象を受けた幸樹には、二人が同じ舞だと気付くことはないだろう。