再会ー3
舞は、自分がお兄さんを一目で分かったから、お兄さんも分かっていると思い、逢えた喜びが大きかっただけに、その哀しみも大きかった。
だが、舞の考えは全て間違っていた。
今日まで、幸樹は恋を禁じ、鷺草の少女一筋に生きてきた。
だが、今、女性に恋心を抱いてしまったのだ。
それも、可哀相な少女の夢を見た後で。
幸樹は自分の心が許せなくなり、それが舞に対して無視という態度で現れたのだ。
無視の原因が、自分の前身にあるとも知らず、舞は、天国から地獄に落ちたほど、辛い思いをした。
だが、幸樹が不機嫌な顔をしているのは舞の所為だけではない。
もう一つの原因は、元妻、早苗だった。
一週間前、別れた妻の早苗が、日本橋に借りた幸樹のマンションへきたのだ。
「何故、来たんだ。僕は君に住所を教えた覚えがないし、招待した覚えもない、すぐ、帰ってくれないか」
幸樹が不快感を込めて言うと。
「貴方がどうしているか心配だったので、自分が探しました」
しおらしく、素直に答えた。
「僕は、心配などしてくれなくもいいから帰ってくれ」
「冷たいことを言わずに、少しだけ話をさせてください」
早苗は、悲しそうに芝居する。
「少しなら聞くが、時間が無いから、早く、話をおわらせてくれ」
幸樹は、少しでも優しい言葉をかけたら、後々、どんな難題を持ち込まれてるかもしれないと考え、必要以上に冷たく接した。
「分かったわ」
最初は、早苗はさり気なく、楽しかった過去の話をしていたが、突然、泣きながら幸樹に縋り付いてきて、許しを乞うた。
「貴女の大切な赤ちゃんを死なせてご免なさい」
「僕に謝っても仕方ない。僕は、子供が生まれていたら、今頃、どんな子供になっていたただろう、と、同じ年ごろの子供を見るたびに、胸が痛む。だから、思い出す度に、冥福を祈っているよ。謝るのは僕ではなく、生を受けられなっかった子に謝れよな」
「ええ、分かっているわ」
幸樹は、鷺草の少女の哀しげな顔を思いだしながら言った。
「親の居ない子供は哀しい、まして、捨てられた子供の哀しみは計り知れないよ」
「後悔しているわ」
と、早苗は神妙に答えた。
「後悔しても、もう、遅いよ」