再会ー2
女性は鷺草舞、今の名前は和泉舞である。
舞は驚きの声を聞いた、乗客たちは、舞が幸樹を見て驚いたとも知らず、痛みを感じての叫びと勘違いし、原因を作った若者を非難した。
「危ないことをするな」
「すみません」
近くで居た若者が謝った。
幸樹の顔を間近に見た舞は、嬉しさのあまり、今、自分がどんな姿勢でいるのかさえ気付いていなかった。
(逢えた、私のものに)
嬉し涙が止まらない。
七年半前、舞は阪神電車で幸樹と別れた時から幸樹を私だけのもの、と独占し、胸の奥に大切に仕舞いこみ、辛いときや悲しい時には、その顔を思い出し、お兄さん、助けてと叫んでいたのだ。
舞の流す涙の訳を知らない幸樹が心配そうに尋ねる。
「どこか痛む所はないですか?」
幸樹にみつめられた舞は、嬉しそうに答えた。
「はい、大丈夫です」
しかし、今、自分が大好きなお兄さん膝の上に倒れていることを知り、顔を赤らめると、急いで立ち上がり、幸樹に、私、舞ですと、告げようとしたとき、若い男が幸樹と舞の間に割り込み、舞に詫びた。
「危険な目に遇わせてすみません」
「あなたが」
「そうです、僕が、電車に乗り遅れそうになったので、急いで電車に飛び乗り、あなたに衝突したんです。危険な目に遇わせ、どうお詫びしたらよいか分かりません。本当にすみませんでした」
倒れた意味が分かった舞だが。自分が一番大切に思っているお兄さんに出逢った喜びで、若者の危険な行為など気にならない。
「いいのよ、私は大丈夫だから、お気になさらないでください」
「許して頂いて、気持ちが楽になりました」
舞は名乗ろうとして幸樹の顔を見ると、幸樹が難しそうな顔をして目を閉じていた。
その顔を見た舞は考えた。
(お兄さんが難しい顔をしているのは、お兄さんに良くない事が起こっているんだ。そんな時、名乗っても、また、心配事が増えることになる。だから、今日は名乗ったらいけないのかもしれない)
しかし、話をするだけならいいだろうと思い、幸樹を見ると、幸樹が舞を見た、舞が話しかけようとしたとき、幸樹は舞を無視するように目を閉じた。
それを見た舞の顔が見る見る悲しげに変わった。
(お兄さんは、なぜ、舞を無視するの、悲しいわ。そんなに舞に逢ったのがいやなの)